みなさんは円周率を小数第何位まで言えますか?
多くの人が小学生の頃に \(3.14\) で代用して計算する機会があったと思いますが、過去の記事で「円周率 \(\pi\) が無理数である」ことを示したように、小数部分は循環することなく無限に続くことがわかっています。
なぜ、そんな円周率 \(\pi\) を \(3.14\) で代用できるかというと、“何かしらの方法” でだいたいの値がわかっているからです。
本記事では、いくつもある方法の中でも少し高度なものを紹介しようと思います。
最後には、円周率 \(\pi\) が \(3.14\) より大きいことを Excel を用いて確かめます。
解きたい東大入試の紹介。
円周率は直径 \(R\) に対する円周の長さ \(L\) の比 \(\displaystyle \frac{L}{R}\) で定義されますから、最も自然であると思われる方法は
- 円の内部に多角形を描き、多角形の周の長さ \(<L\) のように比較する。(例えば、内接する正多角形を描く。)
- 円を覆う多角形を描き、多角形の周の長さ \(>L\) のように比較する。(例えば、外接する正多角形を描く。)
があると思います。
例えば、2003年の東京大学の入試問題で
円周率が より大きいことを証明せよ。
というものがありましたが、これも上記の前者の方法で評価してあげることで示す方法が複数考えられます。
今回、解きたい問題はこれです。示したい主張を簡単に数式で書けば
\(\pi>3.05\)
です。これを上記の多角形を用いた方法以外で解きたいのです…!
そこで使いたいのが “ウォリスの公式” と呼ばれる公式です。
公式の導出をガッツリ理解したい人は必見!
ご紹介するウォリスの公式を用いた結果を確認するのは難しくないのですが、本記事で公式の導出過程まで詳しく見ていると大変なことになりそうです。
今回は「得られた結果について考えること」に焦点を当てたいので、ピントをぼかさないためにも公式の導出は流れを述べるに留めたいと思います。
その導出過程の行間を埋めて、成り立ちをガッツリと理解したい方は以下の関連動画をご覧になってください。
これらで扱われた知識を用いれば、問題なく読み進められると思います!
ウォリス積分について
スターリングの公式について
ウォリスの公式の導出の流れを確認。
ウォリス積分 \(I_n\) の定義
\(n=0,1,2,\cdots\) に対して定まる
$$I_n=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^n\theta d\theta$$
をウォリス積分と呼びます。ここで、\(\sin^0 \theta=1\) と解釈すると
$$I_0=\frac{\pi}{2}$$$$I_1=1$$であることがわかります。また、\(\sin \theta\) が \(0\) から \(1\) の間の値をとることから、数列 \(\{I_n\}\) は単調減少であることもわかります。
\(I_n\) の漸化式からわかること
\(n\geq2\) として、\(I_n\) に対して部分積分を施すことで
$$nI_n=(n-1)I_{n-2}$$という漸化式を得ます。両辺に \(I_{n-1}\) をかけることで \(nI_{n-1}I_n\) が \(n\) に依らず一定であることがわかるので
$$nI_{n-1}I_n=1\times I_0\times I_1=\frac{\pi}{2}$$となります。数列 \(\{I_n\}\) が単調減少であったことから
$$I_{n+1}<I_n<I_{n-1}$$ですが、各辺に \(nI_n\) をかけることで
$$nI_nI_{n+1}<n{I_n}^2<nI_{n-1}I_n$$すなわち
$$\frac{n}{n+1}\times\frac{\pi}{2}<n{I_n}^2<\frac{\pi}{2}$$を得ます。よって、はさみうちの原理より
$$\lim_{n\to\infty}n{I_n}^2=\frac{\pi}{2}\tag{1}$$を得るのです。
\(I_n\) の漸化式を解く
一方、漸化式 \(nI_n=(n-1)I_{n-2}\) より
$$I_n=\frac{n-1}{n}I_{n-2}$$となるので、例えば \(n=2k+1\) (\(k\) は整数) のとき
$$I_{2k+1}=\frac{2k}{2k+1}I_{2k-1}$$となります。これを繰り返し用いることで
$$I_{2k+1}=\prod_{l=1}^k \frac{2l}{2l+1}=\frac{2}{3}\times\frac{4}{5}\times\cdots\times\frac{2k}{2k+1}$$と書けるのです。
ウォリスの公式を導く
さて、式(1)より \(n{I_n}^2\) の極限がわかっていたので、\((2k+1){I_{2k+1}}^2\) を計算してみると\begin{align}
(2k+1){I_{2k+1}}^2
&=(2k+1)\left(\prod_{l=1}^k \frac{2l}{2l+1}\right)^2\\
&=(2k+1)\left(\prod_{l=1}^k \frac{2l}{2l+1}\right)\left(\prod_{l=1}^k \frac{2l}{2l+1}\right)\\
&=\left(\prod_{l=1}^k \frac{2l}{2l-1}\right)\left(\prod_{l=1}^k \frac{2l}{2l+1}\right)\\
&=\prod_{l=1}^k \frac{(2l)^2}{(2l-1)(2l+1)}\\
&=\prod_{l=1}^k \frac{(2l)^2}{(2l)^2-1}
\end{align}となります。よって、\begin{align}
\lim_{n\to\infty}n{I_n}^2
&=\lim_{k\to\infty}(2k+1){I_{2k+1}}^2\\
&=\prod_{l=1}^\infty \frac{(2l)^2}{(2l)^2-1}\tag{2}
\end{align}を得ます。
以上、式(1)と式(2)より\begin{align}
\frac{\pi}{2}
&=\prod_{l=1}^\infty \frac{(2l)^2}{(2l)^2-1}\\
&=\frac{4}{3}\times\frac{16}{15}\times\frac{36}{35}\times\frac{64}{63}\times\frac{100}{99}\times\cdots
\end{align}を得るのです。これがウォリスの公式です。
あの東大入試を解いてみよう!
ウォリスの公式を分析する
正の数からなる数列 \(\{a_k\}\) を
$$
a_k=\prod_{l=1}^k \frac{(2l)^2}{(2l)^2-1}
$$とおくと、定義から
$$
\frac{a_k}{a_{k-1}}=\frac{(2k)^2}{(2k)^2-1}>1
$$ですから、単調増加します。この数列を用いると、ウォリスの公式は\begin{align}
\frac{\pi}{2}
&=\prod_{l=1}^\infty \frac{(2l)^2}{(2l)^2-1}\\
&=\lim_{n\to\infty} \prod_{l=1}^k \frac{(2l)^2}{(2l)^2-1}\\
&=\lim_{n\to\infty} a_k
\end{align}と書き表すことができます。
つまり、数列 \(\{a_k\}\) の単調増加性から
- \(a_1=\frac{4}{3}>1.33\) なので \(\pi>2\times1.33=2.66\)
- \(a_2=\frac{4}{3}\times\frac{16}{15}>1.42\) なので \(\pi>2\times1.42=2.84\)
- \(a_3=\frac{4}{3}\times\frac{16}{15}\times\frac{36}{35}>1.46\) なので \(\pi>2\times1.46=2.92\)
などがわかります。
\(2a_k \geq 3.05\) なる \(k\) をExcelで求める
さて、示したいことは
$$
\pi>3.05
$$ですね。つまり、十分に大きな \(k\) で$$
2a_k \geq 3.05
$$となるものを見つければ良いわけです。
入試本番では不可能ですが Excel を使いましょう!
数列 \(\{2a_k\}\) の漸化式を考えると
$$
2a_k=2a_{k-1}\times\frac{(2k)^2}{(2k)^2-1}
$$ですから、空白のシートを開いて
- \({\rm A1}\)セルに \(1\) を、\({\rm B1}\)セルに \(2\) を入れる。
- \({\rm A2}\)セルに \(=2*4/3\) を、\({\rm B2}\)セルに \(={\rm A2}*(2*{\rm B1})^2/((2*{\rm B1})^2-1)\) を入れる。
- ふたつのセル \({\rm A2:B2}\) を選択し、第10行まで連続データを生成する。
そうすると、以下のようになります。
つまり
$$
2a_8=\frac{213,084,064,972,800}{69,850,115,960,625}
$$を計算すれば証明が完了するということです!!
\(2a_k \geq 3.14\) なる \(k\) をExcelで求める
ちなみに、第500行あたりまで連続データを生成すると
となるので、\(2a_{493}\) を計算することができれば、円周率 \(\pi\) が \(3.14\) より大きいことが有限回の四則演算のみで(三角関数等を用いることなく)示せるのです!!
最後に。
いかがでしたか?
今回は三角関数の積分で定義されるウォリス積分に対して、漸化式と極限について考察することでウォリスの公式を導出し、その公式によって円周率 \(\pi\) の近似値を求めました。
特に、ウォリスの公式は \(\pi\) を下から評価することになるので
「円周率が◯◯より大きいことを示せ。」
というタイプの問題に(一応)使えるわけです。では
「円周率が \(3.1415\) より大きいことを示せ。」
と言われた場合、\(k\) はいくつまで計算すれば確かめられますか?
先ほどの Excel のシートを用いて、ぜひ計算してみてください!!
コメント