合同式(mod)の成り立ち 〜well-definedの意味を考える〜

数学小話

数学という学問には「分類定理」と総称される問題があり、「対象を分類したい!」というひとつの大きなテーマがあります。

今回は「分類すること」をテーマとし、高校数学の数学Aにおいて発展的内容として位置付けられる「合同式」を扱いたいと思います。

余りなどを計算するときに非常に便利な合同式ですが、何故こんなに便利なのか、どうして直感的に使うことが可能なのか、そのあたりを数学的に明らかにしたいと思います。

キーワードは「同値関係」と「well-defined」です。

 

“良い” 関係とは何か?

同値関係の定義

分類するということは、学校のある学年を例に挙げれば、クラス分けをするようなイメージです。クラス分けをすると、クラスメイトたちは「担任の先生が同じ」という関係を持ちます。(先生は複数のクラスを担任しないものとします。)

このように、要素たちを分類できれば、それらは関係を持ちます。逆に、要素たちに “良い” 関係を定めることができれば、それを元に要素を分類することができるというわけです。

その “良い” 関係における、「良い」とはどのような性質を指すのでしょうか。以下で定義をしたいと思います。

 

\(X\) を空でない集合として、\(X\) の元を分類することを考えます。(「元」とは集合の要素のことです。)

\(X\) の元 \(x,y\) に対して、「\(x\) が \(y\) と関係を持つ」ことを
$$
x\sim y
$$と書くことにします。

このとき、任意の元 \(x,y,z\in X\) に対して、以下の性質を考えます。

  • \(x\sim x\) である。(反射律)
  • \(x\sim y\) ならば \(y\sim x\) となる。(対称律)
  • \(x\sim y\) かつ \(y\sim z\) ならば \(x\sim z\) となる。(推移律)

これらを満たす関係 \(\sim\) が、先ほど述べた “良い” 関係で、数学の用語で \(X\) 上の「同値関係」(どうちかんけい)と呼ばれます。

また、\(x\sim y\) であることを、\(x\) と \(y\) は同値であるといいます。

この定義は抽象的ですので、いくつかの例を見ようと思います。

説明に使ったように、\(X=(\mbox{学校のある学年})\) として、関係を
$$
x\sim y\ \Longleftrightarrow\ x\ \mbox{は}\ y\ \mbox{と担任の先生が同じ}
$$と定義します。このとき、

  • \(x\) は \(x\) 自身と担任の先生が同じ(反射律が成り立つ)
  • \(x\) は \(y\) と担任の先生が同じならば、\(y\) は \(x\) と担任の先生が同じ(対称律が成り立つ)
  • \(x\) は \(y\) と担任の先生が同じで、\(y\) は \(z\) と担任の先生が同じならば、\(x\) は \(z\) と担任の先生が同じ(推移律が成り立つ)

となるので、この関係は \(X\) 上の同値関係となります。

他にも同値関係となる例を挙げていきます。

  1. \(X=(\mbox{整数全体})\) とする。\(n\) を正の整数として固定し
    $$
    x\sim y\ \Longleftrightarrow\ x-y\ \mbox{は}\ n\ \mbox{の倍数}
    $$と定義すると、この関係は \(X\) 上の同値関係。(この同値関係は後で再登場します。)
  2. \(X=(\mbox{三角形全体})\) とする。
    $$
    x\sim y\ \Longleftrightarrow\ x\ \mbox{は}\ y\ \mbox{と合同}
    $$と定義すると、この関係は \(X\) 上の同値関係。
  3. \(X=(\mbox{三角形全体})\) とする。
    $$
    x\sim y\ \Longleftrightarrow\ x\ \mbox{は}\ y\ \mbox{と相似}
    $$と定義すると、この関係は \(X\) 上の同値関係。

一方で、同値関係とならない関係もあります。

  1. \(X=(\mbox{非負整数全体})\) とする。
    $$
    x\sim y\ \Longleftrightarrow\ x>0\ \mbox{かつ}\ y>0\ \mbox{かつ}\ x=y
    $$と定義すると、この関係は対称律と推移律を満たすが、反射律を満たさない。(反例 \(x=0\))
  2. \(X=(\mbox{実数全体})\) とする。
    $$
    x\sim y\ \Longleftrightarrow\ x \leq y
    $$と定義すると、この関係は反射律と推移律を満たすが、対称律を満たさない。(反例 \(x=0\), \(y=1\))
  3. \(X=(\mbox{学校のあるクラス})\) とする。
    $$
    x\sim y\ \Longleftrightarrow\ x\ \mbox{は}\ y\ \mbox{と同じ部活に所属している}
    $$と定義すると、この関係は反射律と対称律を満たすが、推移律を満たさない。(反例 \(x\) が陸上競技部, \(y\) が陸上競技部と吹奏楽部, \(z\) が吹奏楽部)

様々な関係があるということを感じていただけましたでしょうか?

みなさんも適当な集合 \(X\) と、その上の関係 \(\sim\) を考えてみて、3つの条件のどれを満たすか考えてみると、良い頭の体操になるかと思います。

これより先は、同値関係に限定して見てゆきます。

 

関係を持つ仲間たちを同一視する

同値関係と代表元の定義

さて、同値関係 \(\sim\) が定義された集合 \(X\) を考えます。

\(X\) の任意の元 \(x\) に対して、\(x\) と同値なもの全体を考え、それを \([x]\) と書きます。

集合の言葉で書けば、
$$
[x]=\{y\in X \mid y\sim x\}
$$となります。

このとき、\([x]\) を \(x\) の同値類といい、\(x\) をその代表元といいます。

先に挙げた学年のクラス分けの例で言うと、同値類が各クラスで、代表元がそのクラスのある生徒となります。

この例からもわかるように、「\(x\) と \(y\) は担任の先生が同じ \(\Longleftrightarrow\) \(x\) のクラスと \(y\) のクラスは同じ」すなわち
$$
x \sim y\ \Longleftrightarrow\ [x]=[y]
$$が成り立ちます。

また、「学年は相異なる全てのクラスから構成される」すなわち、\([x_1], \cdots, [x_r]\) を相異なる全ての同値類とすると
$$
X=[x_1]\cup \cdots\cup [x_r]
$$が成り立ちます。

この \([x]\) という表記において、これは \(x\) の属すクラスでした。(同値類は英語で “equivalence class” といいます。

代表元 \(x\) は、まさに、クラスの代表である学級委員と思っていただければ良いです。

ここで、「誰を学級委員に選出するか」という問題が出てきます。

今まで見てきた理論上は、同じクラスの人々は互いに同値ですから、誰を選んでも良いことになります。

であるならば、問題を解くときに便利に働く代表元を選びたいですよね。

整数全体 \(X\) には、例に挙げたように同値関係
$$
x\sim y\ \Longleftrightarrow\ x-y\ \mbox{は}\ n\ \mbox{の倍数}
$$が定義できます。

簡単のために \(n=3\) として、具体的に同値類と代表元を求めてみましょう。

まず、\([0]\) は

「\(x-0\) が \(3\) の倍数になる整数 \(x\) の全体」

となりますから、すなわち、\(3\) の倍数全体
\begin{align}
[0]=\{\cdots,-9,-6,-3,0,3,6,9,\cdots\}\tag{0}
\end{align}ですね。

代表元は、この中からなら何を選んでも良い(つまり、\(\cdots=[-6]=[-3]=[0]=[3]=[6]=\cdots\) である)ので、ここでは “ \(0\) ” を選びましょう。

次に、\([1]\) は

「\(x-1\) が \(3\) の倍数になる整数 \(x\) の全体」

となりますから、すなわち、\(3\) で割った余りが \(1\) である整数全体
\begin{align}
[1]=\{\cdots,-8,-5,-2,1,4,7,10,\cdots\}\tag{1}
\end{align}ですね。

ここでも代表元は何を選んでも良いので、ここでは “ \(1\) ” を選びましょう。

最後に、\([2]\) は

「\(x-2\) が \(3\) の倍数になる整数 \(x\) の全体」

となりますから、すなわち、\(3\) で割った余りが \(2\) である整数全体
\begin{align}
[2]=\{\cdots,-7,-4,-1,2,5,8,11,\cdots\}\tag{2}
\end{align}ですね。

もちろん代表元は何を選んでも良いので、ここでは “ \(2\) ” を選びましょう。

以上、(0)、(1)、(2)より、整数全体の集合を改めて \(\mathbb{Z}\) と書くことにすれば
$$
\mathbb{Z}=[0]\cup [1]\cup [2]
$$と書くことができますね。これが、整数の分類になっているわけです。

この同値関係において、同値類の代表元は \(3\) で割った余りの \(0,1,2\) からとれていますよね。

このことから、整数全体 \(\mathbb{Z}\) にこの同値関係を定めたときの同値類を「剰余類」(じょうよるい)と呼ばれます。

また、同値であることを「合同」であるといいます。

ここまでがキーワードのひとつめ「同値関係」の話題でした。

これより先は整数全体 \(\mathbb{Z}\) に話題を限定して、ふたつめのキーワード「well-defined」について見てゆきます。

 

加減乗法がwell-definedであること

上で見たように、\(\mathbb{Z}\) には合同と呼ばれる同値関係
$$
a\sim b\ \Longleftrightarrow\ a-b\ \mbox{は}\ n\ \mbox{の倍数}
$$が定義されていました。

以下、簡単のために \(n=7\) としましょう。

上で \(n=3\) として見たように、整数全体 \(\mathbb{Z}\) は剰余類によって
$$
\mathbb{Z}=[0]\cup [1]\cup [2]\cup [3]\cup [4]\cup [5]\cup [6]
$$と分解できていました。

ここで、剰余類の集合を \(\mathbb{Z}/7\mathbb{Z}\) と書くことにします。つまり
$$
\mathbb{Z}/7\mathbb{Z}=\{[0], [1], [2], [3], [4], [5], [6]\}
$$です。

ここでの目標は、この「括弧付きの整数」からなる剰余類の集合 \(\mathbb{Z}/7\mathbb{Z}\) に演算を定めることです。

その演算とは、突飛なものではなく、整数全体 \(\mathbb{Z}\) に定義されていた加法・減法・乗法を元に遺伝させることができないかを考えます。

自然に考えれば、

\([1]+[2]\) は何かと問われたとき、\([3]\) と答えたいですよね!

\([4]-[6]\) は何かと問われたとき、\([-2]\) すなわち \([5]\) と答えたいですよね!!

\([3]\times[5]\) は何かと問われたとき、\([15]\) すなわち \([1]\) と答えたいですよね!!!

それでいいんです。それでいいんですが、怪しい点、確かめておくべき点があるのです。お気付きになるでしょうか?

 

先に述べたように、代表元のとり方は自由です。

自由なのに、勝手に \(1\) と \(2\) を使って \([1]+[2]=[1+2]=[3]\) としても良いのでしょうか。

代表元として、別に \(8\) と \(16\) を使って足してみても同じ答え \([3]\) になりますか?

「如何なる代表元のとり方をしても、

答えは同じものに定まりますか?」

これを確かめないと、代表元のとり方によって答えが自由に変わる、トンデモ演算が出来上がってしまいますよね。

「如何なる代表元のとり方をしても、

演算結果は同じものに定まること」

を、その演算は「well-defined」であるといいます。これがキーワードのふたつめです。

以下、これを確認してゆきましょう。

加法について

加法がwell-definedであることを証明しましょう。

具体的には、“複数の代表元のとり方をしても、答えは等しい” ことを言えば良いのですから

\([a]=[a^\prime]\) かつ \([b]=[b^\prime]\)

ならば

\([a+b]=[a^\prime+b^\prime]\)

を示すことになります。早速、示しましょう。

 

– – – – – 証明 – – – – –

\([a]=[a^\prime]\) かつ \([b]=[b^\prime]\) より \(a-a^\prime\) と \(b-b^\prime\) は共に \(7\) の倍数である。よって、
$$
(a+b)-(a^\prime +b^\prime )=(a-a^\prime )+(b-b^\prime )
$$ も \(7\) の倍数となる。これより、
$$
[a+b]=[a^\prime +b^\prime ]
$$ を得る。

– – – – – 証明終 – – – – –

減法について

減法がwell-definedであることを証明するには、加法と同様に

\([a]=[a^\prime]\) かつ \([b]=[b^\prime]\)

ならば

\([a-b]=[a^\prime-b^\prime]\)

を示せば良いのですが、加法の場合とほぼ同じなので、証明は省略したいと思います。(手を動かして再現してみましょう。)

乗法について

乗法がwell-definedであることもまた、同様です。少しだけ計算に工夫があるので、一応書いておきますね。

\([a]=[a^\prime]\) かつ \([b]=[b^\prime]\)

ならば

\([ab]=[a^\prime b^\prime]\)

を示します。

 

– – – – – 証明 – – – – –

\([a]=[a^\prime]\) かつ \([b]=[b^\prime]\) より \(a-a^\prime\) と \(b-b^\prime\) は共に \(7\) の倍数である。よって、
$$
ab-a^\prime b^\prime =a(b-b^\prime )+(a-a^\prime )b^\prime
$$ も \(7\) の倍数となる。これより、
$$
[ab]=[a^\prime b^\prime ]
$$ を得る。

– – – – – 証明終 – – – – –

 

合同式の誕生!

以上より、剰余類の集合 \(\mathbb{Z}/7\mathbb{Z}\) に加法・減法・乗法がwell-definedに定義されました。

つまり、先ほど見たような演算
\begin{align*}
[1]+[2] & =[3]\\
[4]-[6] & =[-2]=[5]\\
[3]\times [5] & =[15]=[1]
\end{align*} が成り立つわけです。

見た感じ、どんな印象を受けますか?

計算が自由にできることは素晴らしいですが、一々、括弧 “ \([\cdot]\) ” を書くのが面倒じゃありませんか?

表記は楽に越したことはありませんから、少し工夫をしましょう。

 

そこで、「 \([4]-[6]=[5]\) 」を例にとりましょう。

まずは、面倒だった括弧を外すと「 \(4-6=5\) 」となりますが、これは普通の数の計算と区別がつかず、算数レベルでの誤りを含みますね。もともと「合同」と呼ばれていたくらいですから、図形の合同の記号を拝借して「 \(4-6 \equiv 5\) 」と書きましょう。

我々は、\(n=7\) としようという前提を共有していますから、このままでも問題は生じません。しかし、一般的にはそれを明示する必要がありますから「\(\pmod 7\)」と書き添えることにしましょう。

これでめでたく
$$
4-6 \equiv 5 \pmod 7
$$

という表記が完成しました。このような式を「合同式」と呼びます。

 

最後に

今回は、合同式の成り立ちについて考えてきました。

合同式に現れる数は、単なる整数ではなく、分類された剰余類の代表元たちです。

それらは、同じ剰余類からなら自由にとり替えることができて、しかも、どう選んでも計算結果は変わらないというwell-defined性を持ち合わせていました。

これらを意識すると、合同式を単なる計算ツールとして認識するのではなく、背後に隠れた分類の理論の上手さを感じることができるのではないかと思います。

AkiyaMath

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