早い者順で何かを選ぶとき、最後になってしまった人に対して
「残り物には福があるよ。」
と声をかける場面に遭遇したことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここで言う “福” とは、その人にとっての “幸運” を指しているのだと思います。普通は、順番が早めの人の方が自分の望むものを選べますから、幸運を得られる確率は高いでしょう。それに対して、この諺(ことわざ)は
「残り物からでも思いがけない幸運が得られる可能性がある」
と主張しているのです。確かに、早い者順で好きなものを選べるような状況においては、励ましの意味が強くあるように感じますね。
今回は、この諺について数学的に考えてゆきたいと思います。具体的には
- 幸運とは何か?
- 早い者順でランダムに選ぶ場合でも励ましの意味を持つか?
- 幸運を得る可能性を最大にするには何番目に選ぶと良いか?
といったポイントについて注目したいと思います。
「幸運」に定義を与える。
一般的な「幸運」を定義するのは難しいですので、状況を限定しましょう。
あなたはパーティに参加しています。 そのパーティではプレゼント交換会が企画されており、 一人一個ずつプレゼントを持ち寄っています。 そのプレゼントが何かは予めわかっています。 しかし、どのプレゼントをを貰えるかは 完全ランダムなくじ引きによって決めることにしています。 |
さて、このような状況におけるあなたにとっての「幸運」を
「予め目星を付けていたプレゼントが当たるくじを引くこと」
と定義しましょう。
今回はわかりやすいように
- パーティの参加者(=プレゼントの個数)は \(7\) 人
- 目星を付けているプレゼントは \(2\) 個
としましょう。
この状況において「残り物に福があるのか」つまり「当たりくじを引く確率が後半の方が高いのか」を考えてゆきたいわけです。
これくらいの数なら模擬的に実験することができそうですね。
皆さんの予想は?
実験を行う前に予想をしてみましょう。
Twitterで、少し設定は異なりますが、4人の場合(当たりは1本)でアンケートを取ってみました。
【本当に「残り物には福がある」のか?】
4本中1本が当たりのくじがあります。
4人で順番に引き、戻さず、最後に同時に当たりの確認をします。
引く順番が鍵ですが、当たりを引く確率を最大にしたいあなたは、くじを何番目に引きますか??
※他の人は順番に関心がないので、自由に決められます。
— AkiyaMath(数学愛好家) (@AkiyaMath) July 5, 2022
どうやら、先に引いてしまいたい人が多いようですね!
確率云々ではなく、自分の人生は選択肢が多い状態で自分で決めたいと思ってしまうかもしれませんね!
中には「当たりくじを見極められる人の存在が否定できないので、その人より先に引くために1番を選ぶ。」のような意見もありました。面白い意見ですが、今回はそのような能力はないものとしましょう(笑)
果たして、この予想は正しいのでしょうか?
次は実験をしてみましょう。
実際にくじを引いてみる。
では実際に、\(7\) 本のうち \(2\) 本が当たりであるようなくじを作成し、何度か繰り返しくじ引きを実行してみましょう。その実験の様子をショート動画にしましたのでご覧下さい。
全部で \(7\) 回繰り返したわけですが、当たりを引いた回数は
1番目 | 2番目 | 3番目 | 4番目 | 5番目 | 6番目 | 7番目 |
\(1\) 回 | \(1\) 回 | \(3\) 回 | \(2\) 回 | \(3\) 回 | \(3\) 回 | \(1\) 回 |
となりました。
実験では中盤から後半が多そうです。かと言って、極端には偏っていない印象です。しかしながら、如何せん試行回数が少なすぎますね。(ショート動画の限界です…。)
このように、予想と実験結果に乖離があることもあるでしょう。最後にはやはり、理論的な考察を進めてゆくことになります。
当たる確率を計算する。
さて、ここからが「数学の出番」です。用いるのは高校1年で学ぶ数学Aの範囲の知識(場合の数・確率)ですが、それでも十分に役に立つところを実感できると思います。
考え方に関しては、中学数学でも十分に理解できるはずです。
では、始めます。
あなたは \(n\) 番目にくじを引くとしましょう。
(つまり、最終的に \(n\) には \(1\) から \(7\) の数が入ります。“どの数が入っても良いように \(n\) という文字で表しておく” のです。)
ここで、確率を求めるので、当たり \(2\) 本もハズレ \(5\) 本も区別することに注意したいと思います。
(例えば極端な例として、当たり \(2\) 本、ハズレ \(98\) 本のようなくじから \(1\) 回だけ引くことを考えます。仮に、当たり同士、ハズレ同士を区別しなかった場合、引いたくじの結果は当たりかハズレかの \(2\) パターンしかないので確率 \(\displaystyle \frac{1}{2}\) となってしまうからです。これは明らかにおかしいですね。同じ当たりでも \(2\) 通り、同じハズレでも \(98\) 通りとカウントしなければなりません。)
全体で何通りの引き方があるか考えると、この場合に当たりとかハズレとかは関係ないので、\(7!\) 通りとなります。
(1人目は自由に選べて \(7\) 通り。2人目は残ったものから自由に選んで \(6\) 通り。3人目はさらに残ったものから自由に選んで \(5\) 通り。これを繰り返してゆくと7人目は最後なので \(1\) 通りとなります。これらを全てかけ合わせることで、階乗を用いて \(7\times6\times5\times4\times3\times2\times1=7!\) 通りとなるのです。ここで、具体的なかけ算の計算をしないことがポイントです。きっとこのあと約分するので…。)
次に、あなたが当たりを引く引き方が何通りあるか考えます。\(n\) 番目のあなたには当たり \(2\) 本から \(1\) 本が割り当てられると考えると \(2\) 通り。\(n\) 番目以外の \(6\) 人は凡ゆる引き方が考えられるので、「全体で何通りの引き方があるか」と同じ考えから \(6!\) 通り。これらをかけ合わせることで \(2\times6!\) 通りとなります。
(こちらも、かけ算は計算しないでおきます。)
この「全体の場合の数」と「考えている状況になる場合の数」の比率が “確率” でしたね。
求める確率を \(p\) とおいてみると
\begin{align}
p
&=\frac{\mbox{考えている状況になる場合の数}}{\mbox{全体の場合の数}}\\
&=\frac{2\times6!}{7!}\\
&=\frac{2\times6!}{7\times6!}\\
&=\frac{2}{7}\\
&=0.2857\cdots
\end{align}となります。
これより、求める確率を \(p\) は「約 \(28.6\) %」であると言えます。
計算してみてわかったこととは?
確率の計算(というか \(2\div7\) の計算)お疲れ様でした。
みなさん、何かに気付きましたか??
結果を再度まとまると
「あなたが \(n\) 番目にくじを引くとき、当たる確率は約 \(28.6\) %である。」
となります。この結果における \(n\) とは何でしょうか。ちょっと上にスクロールしてみると
“どの数が入っても良いように \(n\) という文字で表しておく”
と書いていますね。そう。\(n\) にはどの数を入れても良いのです。実際に \(1\) から \(7\) の数を入れて(くどいですが実感するために)結果を書き並べてみると
あなたが \(1\) 番目にくじを引くとき、
当たる確率は約 \(28.6\) %です。
あなたが \(2\) 番目にくじを引くとき、
当たる確率は約 \(28.6\) %です。
あなたが \(3\) 番目にくじを引くとき、
当たる確率は約 \(28.6\) %です。
あなたが \(4\) 番目にくじを引くとき、
当たる確率は約 \(28.6\) %です。
あなたが \(5\) 番目にくじを引くとき、
当たる確率は約 \(28.6\) %です。
あなたが6番目にくじを引くとき、
当たる確率は約 \(28.6\) %です。
あなたが7番目にくじを引くとき、
当たる確率は約 \(28.6\) %です。
嫌になりそうなので一言でまとめましょう。
「あなたは何番目にくじを引こうとも、当たる確率は等しく約 \(28.6\) %です。」
これが、理論的な考察から得られた結論です。
最後に。
今回の設定、そして、「幸運」の定義では、
“残り物に特別な福(=幸運)があるわけではない”
ということがわかってしまいました。しかし、同時に
“残り物が特に不運であるというわけでもない”
と言えたわけです。これは面白いですね。
引く順番は確かに順序があるので不平等な印象を受けますが、何番目に引くかは関係なく、自分が幸せになれる確率は不変なのです。(これは “くじ引きの公平性” などと呼ばれます。)
その確率は、初めに目星を付けるプレゼントの割合、つまり、あなたにとっての「幸運」がどのように定まるかのみに依るのですね。
本日は7月7日。そう、「七夕」です。
短冊に願い事を書いたりしましたか?
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