今回のテーマは「分母の有理化」です。中学3年生で平方根について学び、初めて有理化を学びます。その後、高校数学では展開公式を用いた複雑な有理化を学びますね。
本記事では
「累乗根を含む分数の分母の有理化はいつもできるのか」
という疑問について考えてゆきたいと思います。
※「その分母は有理化できないよ」と発言する方が周りにいたら、この記事を読んであげてください。
この記事では、直感を交えながら大学以降の数学で学ぶような事実を噛み砕いて説明しています。慣れない記号や表現、考え方が登場しますが、目新しい事柄に対して拒絶することなく、柔軟に受け入れる姿勢で読み進めていっていただければと思います。
また、最後には
$$
\frac{1}{\sqrt[5]{64}-\sqrt[5]{4}+1}
$$の分母の有理化を2通りの方法で行いたいと思います!
有理化とは
中学及び高校までの有理化の説明
中学校や高校で扱われる分数は、例えば
\begin{align*}
\frac{1}{\sqrt{3}},&&
\frac{3}{\sqrt{5}+\sqrt{2}},&&
\frac{\sqrt{7}}{\sqrt{5}+\sqrt{3}-\sqrt{2}}&
\end{align*}があります。
例えば、\(\dfrac{3}{\sqrt{5}+\sqrt{2}}\) においては、分母の \(\sqrt{5}+\sqrt{2}=\alpha+\beta\) と見做したときに、\(\alpha^2=5\) と \(\beta^2=2\) の多項式になるように \(\alpha,\beta\) の多項式 \(\alpha-\beta\) を分母と分子にかけます。
そうすると、
\begin{align*}
\frac{3}{\sqrt{5}+\sqrt{2}}
&=\frac{3}{\alpha+\beta}\\
&=\frac{3(\alpha-\beta)}{\alpha^2-\beta^2}\\
&=\frac{3(\sqrt{5}-\sqrt{2})}{5-2}\\
&=\sqrt{5}-\sqrt{2}
\end{align*}となります。
このように、\(\alpha=\sqrt{3}\) などとおいて、分母が \(\alpha^2=3\) の多項式になるように \(\alpha\) の多項式を分母と分子にかけることが「分母の有理化」でした。
仮に、\(\alpha=\sqrt[3]{3}\) などおいた場合は、分母が \(\alpha^3=3\) の多項式になるように \(\alpha\) の多項式を分母と分子にかけます。
大学以降における有理化の説明
有理数全体の集合を \(\mathbb{Q}\) と書くことにして、改めて \(K=\mathbb{Q}\) とおきます。
まず、\(K\) の数を係数とする「多項式」を全て集めた集合を \(K[x]\) と書きます。つまり、\(p(x)\in K[x]\) と書いたら、\(p(x)\) は \(K\) の数を係数とする多項式であるということです。
次に、\(K\) の数を係数とする「有理式」を全て集めた集合を \(K(x)\) と書きます。つまり、\(q(x)\in K(x)\) と書いたら、\(q(x)\) は \(K\) の数を係数とする有理式であるということです。
このとき、多項式 \(p(x)\) 及び有理式 \(q(x)\) で \(x=\alpha\) と代入したときに \(p(\alpha)\), \(q(\alpha)\) と書くことに倣って、\(x=\alpha\) と代入した多項式及び有理式の集合をそれぞれ \(K[\alpha]\), \(K(\alpha)\) と書くことにします。つまり、集合を具体的に書くと
\begin{align*}
K[\alpha]&=\{p(\alpha)\mid p(x)\in K[x]\}\\
K(\alpha)&=\left\{\left.q(\alpha)=\frac{f(\alpha)}{g(\alpha)}\ \right|\ f(x),g(x)\in K[x]\ (g(\alpha)\neq0)\right\}
\end{align*}となります。
この表記で \(g(x)=1\) とすればわかるように、一般的に
$$
K[\alpha]\subset K(\alpha)
$$が成り立ちます。
先程の分母の有理化を思い出しましょう。\(\alpha=\sqrt{3}\) とおきます。
このとき、任意の有理式 \(q(x)\in K(x)\) に対して「\(q(\alpha)\) の分母が有理化可能である」とは、「分母が \(\alpha^2=3\) の多項式になるよう \(\alpha\) の多項式を分母と分子にかけることが可能である」ということです。つまり、「\(\alpha\) の有理式だと思っていた \(q(\alpha)\) は \(\alpha\) の多項式であった」ということです。
これより、\(\alpha\) の任意の有理式の分母が有理化可能であるとは、先程と逆の包含関係
$$
K[\alpha]\supset K(\alpha)
$$が成り立つことを意味するのです!!
もとの包含関係と合わせれば
$$
K[\alpha]=K(\alpha)
$$となることが「分母の有理化可能性」を表していると言えますね。(これが重要!!!)
示したい主張をはっきりさせる
さて、我々はどのような問題を考えれば良いのでしょうか。
冒頭で挙げた \(\dfrac{3}{\sqrt{5}+\sqrt{2}}\) の分母の有理化では \(\alpha=\sqrt{5}\) と \(\beta=\sqrt{2}\) を用いていました。このような場合、2変数の多項式と有理式に対して
$$
\mathbb{Q}[\alpha, \beta]=\mathbb{Q}(\alpha, \beta)
$$が成り立つことを以てして「\(\alpha,\beta\) の任意の有理式の分母が有理化可能である」と考えます。
しかし、\(\alpha,\beta\) の多項式は \(\beta\) について同類項をまとめて整理することで \(\mathbb{Q}[\alpha, \beta]=K[\beta]\), \(K=\mathbb{Q}[\alpha]\) と考えられます。同様に \(\mathbb{Q}(\alpha, \beta)=K(\beta)\), \(K=\mathbb{Q}(\alpha)\) と考えられます。
よって、考える累乗根 \(\alpha,\beta,\gamma,\cdots\) が「有限個」であるならば、「1個」である場合の分母の有理化可能性
$$
K[\alpha]=K(\alpha)
$$を順に繰り返すことによって \(\alpha,\beta,\gamma,\cdots\) の任意の有理式の分母が有理化可能であることが言えるのです!!
素因数分解も考慮することにより、我々が示すべき主張は以下の通りです。
– – – – –
素数の累乗の累乗根 \(\alpha\) に対して、\(K\) を \(\mathbb{Q}\) を含むが \(\alpha\) を含まない “体’’(四則演算が自由に行える有理数や実数のような数全体の集合)としたときに
$$
K[\alpha]=K(\alpha)
$$が成り立つ。
– – – – –
この主張は極めて抽象的です。「すっきりしてわかりやすい!」と思えない人は以下の場合を考えれば良いです!
– – – – –
\(\alpha=\sqrt{p}\) (\(p\) は素数) に対して
$$
\mathbb{Q}[\alpha]=\mathbb{Q}(\alpha)
$$が成り立つ。
– – – – –
主張を示そう!
何を示せば良いか考える
分母の有理化をする際に大事なのは分母ですので、言ってしまえば分子は関係ありません。つまり、最も簡単な \(q(\alpha)=\dfrac{1}{g(\alpha)}\) の形をした有理式の分母が有理化できれば十分ですね。
ここで、以下の箇条書きは順に、\(q(\alpha)\) の分母が有理化可能であることを言い換えたものになります。一緒に言い換えてゆきましょう。但し、\(\alpha=\sqrt[m]{p^n}\) とし、\(m\) と \(1\leq n<m\) は互いに素であるものとします。(慣れないうちは \(n=1\), \(m=2\) で読み進めましょう。)
- \(q(\alpha)=\dfrac{1}{g(\alpha)}\) の分母が有理化可能である。
分母と分子に \(N(\alpha)\) (\(N(x)\in K[x]\)) をかけて有理化したと考えると…
- \(N(\alpha)g(\alpha)=1\) なる \(N(x)\in K[x]\) が存在する。
\(\alpha\) を根にもつ \(K\) 上の多項式のうちこれ以上因数分解できないものは \(x^m-p^n\) なので…
- \(M(x)(x^m-p^n)+N(x)g(x)=1\) なる \(M(x),N(x)\in K[x]\) が存在する。
確かに、\(x=\alpha\) を代入すれば一つ前に戻りますね。
つまり、
「\(M(x)(x^m-p^n)+N(x)g(x)=1\) なる \(M(x),N(x)\in K[x]\) が存在すること」
を示せば良いことがわかりました。
多項式に対するユークリッドの互除法
整数に対するユークリッドの互除法は高校数学で扱われるようになりましたが、類似の結果が多項式についても成り立ちます。
– – – – –
\(f(x),g(x)\in K[x]\) の最大公約多項式を \(d(x)\) とする。
\(f(x),g(x)\) から始めて、除法の原理を繰り返し用いることで
$$
M(x)f(x)+N(x)g(x)=d(x)
$$なる \(M(x),N(x)\in K[x]\) を求めることができる。
– – – – –
特に、\(f(x),g(x)\) が「互いに素」であるならば、\(d(x)=1\) なので
「\(M(x)f(x)+N(x)g(x)=1\) なる \(M(x),N(x)\in K[x]\) が存在する。」
見覚えがありませんか?
そうです。\(f(x)=x^m-p^n\) の場合について「\(f(x),g(x)\) が互いに素である」という仮定を満たせば、ユークリッドの互除法から証明が完了するのです!
いざ、証明。
さあ、「\(f(x)=x^m-p^n\) と \(g(x)\) が互いに素であること」を証明しましょう!
– – – – – 証明 – – – – –
\(g(x)\) はもちろん \(x=\alpha\) としたときに分母である \(g(\alpha)\) に一致するものとして定めていた。ここで、\(\alpha^m=p^n\in K\) であるので、\(g(\alpha)\) は初めから \(\alpha\) について \(m\) 次未満であるとして良い。つまり、\(g(x)\) も \(m\) 次未満と仮定することができる。
\(f(x),g(x)\) の最大公約多項式を \(d(x)\) とする。(これが \(=1\) となることを示す。)
- \(d(x)\) は \(f(x)\) を割り切るが、\(f(x)\) はこれ以上因数分解できないので \(d(x)=1\) または \(f(x)\) である。
- \(d(x)\) は \(g(x)\) を割り切るので、その次数は \(m\) 未満である。
ここで、\(f(x)\) の次数は \(m\) であるので \(d(x)=1\) が従う。つまり、\(f(x),g(x)\) は互いに素である。
– – – – – 証明終 – – – – –
証明が終わりましたね。今までの議論と合わせて、
「有限個の累乗根と有理数によって書かれた分数の分母は必ず有理化することができる」
ことが示されました!!
冒頭の有理化の解法
さて、冒頭の分数
$$
\frac{1}{\sqrt[5]{64}-\sqrt[5]{4}+1}
$$の分母を有理化しましょう。
解法1(証明を再現する!)
証明をそのまま再現したいと思います。証明の理解を深めることにも繋がるので、是非マスターしましょう!
- まずは \(\alpha\) 及び \(g(x)\) を決めます。\(\alpha=\sqrt[5]{2}\) とすれば \(g(x)=-x^2+2x+1\) と設定することができますね。
- 次に \(f(x)=x^5-2\) と \(g(x)=-x^2+2x+1\) に対してユークリッドの互除法を適用します。実際に計算すると
\begin{align*}
f(x)&=g(x)(-x^3-2x^2-5x-12)+(29x+10)\\
g(x)&=(29x+10)\left(-\frac{x}{29}+\frac{68}{841}\right)+\frac{161}{841}
\end{align*}となるので、\(x=\alpha\) として第二式から逆順に計算してゆくと
\begin{align*}
\frac{161}{841}
&=g(\alpha)-(29\alpha+10)\left(-\frac{\alpha}{29}+\frac{68}{841}\right)\\
&=g(\alpha)-g(\alpha)(\alpha^3+2\alpha^2+5\alpha+12)\left(-\frac{\alpha}{29}+\frac{68}{841}\right)\\
&=g(\alpha)\left(1-(\alpha^3+2\alpha^2+5\alpha+12)\left(-\frac{\alpha}{29}+\frac{68}{841}\right)\right)\\
&=g(\alpha)\frac{29\alpha^4-10\alpha^3+9\alpha^2+8\alpha+25}{841}
\end{align*}すなわち
$$
g(\alpha)\frac{29\alpha^4-10\alpha^3+9\alpha^2+8\alpha+25}{161}=1
$$となります。 - 最後に \(\alpha=\sqrt[5]{2}\) を代入すれば終わりです。実際、
\begin{align*}
\frac{1}{\sqrt[5]{64}-\sqrt[5]{4}+1}
&=\frac{1}{g(\alpha)}\\
&=\frac{29\alpha^4-10\alpha^3+9\alpha^2+8\alpha+25}{161}\\
&=\frac{29\sqrt[5]{16}-10\sqrt[5]{8}+9\sqrt[5]{4}+8\sqrt[5]{2}+25}{161}
\end{align*}となります。
解法2(証明を利用する!)
証明した事実を上手く使います。使う事実の強力さによって、比較的簡単な(?)計算で有理化することができます。
- まず、示した事柄より
$$
\frac{1}{\sqrt[5]{64}-\sqrt[5]{4}+1}\in\mathbb{Q}(\sqrt[5]{2})=\mathbb{Q}[\sqrt[5]{2}]
$$であるので、有理数 \(a,b,c,d,e\) によって
$$
\frac{1}{\sqrt[5]{64}-\sqrt[5]{4}+1}=a\sqrt[5]{16}+b\sqrt[5]{8}+c\sqrt[5]{4}+d\sqrt[5]{2}+e
$$と書けます。 - 次に、両辺に \(\sqrt[5]{64}-\sqrt[5]{4}+1\) をかけて分母を払うと
$$
1=(a+2b-c)\sqrt[5]{16}+(b+2c-d)\sqrt[5]{8}+(c+2d-e)\sqrt[5]{4}+(d+2e-2a)\sqrt[5]{2}+(4a-2b+e)
$$となります。 - 最後に、有理数である各係数を比較して連立方程式を一生懸命に解くと
\begin{align*}
a&=\frac{29}{161},&b&=-\frac{10}{161},&c&=\frac{9}{161},&d&=\frac{8}{161},&e&=\frac{25}{161}
\end{align*}であるので
$$
\frac{1}{\sqrt[5]{64}-\sqrt[5]{4}+1}=\frac{29\sqrt[5]{16}}{161}-\frac{10\sqrt[5]{8}}{161}+\frac{9\sqrt[5]{4}}{161}+\frac{8\sqrt[5]{2}}{161}+\frac{25}{161}
$$となります。
最後に
今回は「累乗根を含む分数の分母の有理化はいつもできるのか」という疑問について考えてきました。見事、「いつでも有理化可能である」という結論を得ましたね!
今、\(\dfrac{1}{g(\alpha)}\) の分母を有理化して \(N(\alpha)\) になったとすると、証明からも明らかですが \(N(\alpha)g(\alpha)=1\) が成り立ちますよね。つまり、分母の有理化とは「分母の逆数を求める行為」だったのです。
本記事は大学以降の数学の内容を高校数学の言葉にできる限り翻訳して書いております。基になっている一般論は抽象的で難しいため、みなさんの直感に訴えて説明を端折った事実も実は存在します。
今回の証明の行間を埋められるまで数学を学んでいただけるのなら最高に嬉しいのですが、そうでない場合でも、最後まで読んでいただけた方には証明の雰囲気は感じていただけたのではないかなと思います。
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