円周率「π」は割り切れない?無理数? 〜どこよりも丁寧に背理法で証明〜

代数

クリスマスイブである本日は

「円周率 \(\pi\) が無理数であること」

を証明したいと思います!

本記事では1947年に発表されたイヴァン・ニーベンという数学者による証明をご紹介します。この方法では、高校数学の知識のみで証明することが可能です。私も “どこよりも丁寧な説明’’ を目指して、気合を入れて証明してゆきたいと思います。

 

証明する前に…

円周率の定義と注意点

円周率とは、

「円の直径に対する円周の比率」

として定義されます。円周率を表す記号としては、アルファベットの \({\rm p}\) に対応するギリシャ文字の「\(\pi\)」が用いられます。

円周率の定義はこれだけですが、注意点がふたつほどあります。

  • 円において直径も円周も長さは実数で表されますから、その比率である円周率 \(\pi\) も実数である。
  • 任意の円は互いに相似であるので、円周率はどの円に対しても一定の値をとる。

特にひとつ目の注意は、この後ご紹介する “背理法’’ に関連してきます。

無理性を示す背理法

数が無理数であることを示すためには「背理法」という証明方法が採用されます。

正しいことが保証されている事実に加えて、「自分でひとつだけ新たな仮定 \(p\) を設ける」のです。その仮定の下で議論を進めてゆき、何かしら辻褄が合わないこと、矛盾が生じたとします。そのとき、何か前提に誤りがあったことになるのですが、正しいことが保証されていないのは自分で仮定した条件 \(p\) のみです。よって、「\(p\) ではない」という結論を得るのです。

無理数とは「有理数ではない実数」として定義されますから、\(p\) として「円周率 \(\pi\) は有理数である」とすれば良いように感じます。良いのですが、ひとつ注意しなければなりません。

円周率 \(\pi\) が実数であることは保証されているか?

今回はそれが保証されているので「有理数である」と仮定すれば、矛盾を導くことによって「無理数であること」が従います。(\(z^2+1=0\) なる数 \(z\) に対して「有理数である」と仮定して矛盾を導いても「無理数であること」を示したことにはなりませんよね。)

 

証明してゆきましょう!!

まずは背理法の仮定を丁寧に。

円周率 \(\pi\) は有理数であると仮定しましょう。\(\pi\) は正の数であるので、正の整数 \(a,b\) を用いて
$$
\pi=\frac{b}{a}
$$と書くことができます。これは有理数の定義、そのままですね。このような正の整数 \(a,b\) を1組とって固定しておきます。

ここで、「\(a,b\) は互いに素である」という条件を考えた方もいると思います。この条件は、約分をすることによって “仮定することができる条件’’ であって、仮定しなければならない条件ではないということに注意しなければなりません。今回は、特に仮定する必要はありません。

今回の証明の登場人物を紹介します。

今回の証明では、とある関数の積分値について考えることになります。その関数とは
$$
f_n(x)=\frac{a^n}{n!}x^n(\pi-x)^n\quad(n=1,2,3,\cdots)
$$です。

この関数のグラフの形状に関して

  • \(x\) を \(\pi-x\) で置き換えても関数の形が変わらないので \(\displaystyle x=\frac{\pi}{2}\) に関して左右対称です。
  • 相加平均と相乗平均の大小関係より \(\displaystyle x=\frac{\pi}{2}\) において最大値 \(\displaystyle \frac{a^n}{n!}\left(\frac{\pi}{2}\right)^{2n}\) をとります。

グラフの山の高さは \(a\) や \(n\) によって変化しますが、\(0\leq x\leq\pi\) においては必ず左右対称な山になっているというわけです。

 

この関数に \(\sin x\) をかけた関数 \(f_n(x)\sin x\) を考えます。グラフとしては、山の中でサインカーブを描くので少し尖った形になります。(山の高さは変わりません。)

 

この山の面積を \(I_n\) とおきます。すなわち
$$
I_n=\int_0^\pi f_n(x)\sin x dx\quad(n=1,2,3,\cdots)
$$とおくのです。この積分値 \(I_n\) について考察を進め、矛盾を導くことになります。

積分値 \(I_n\) は必ず整数になる!

\(I_n\) の被積分関数は「多項式 \(\times\) 三角関数」の形になっているので、部分積分を行うことで多項式の次数を下げて計算を進めるという方法がありますね。やってみましょう。

2回だけ部分積分をしてみると
\begin{align*}
I_n
&=\int_0^\pi f_n(x)\sin x dx\\
&=\left[f_n(x)(-\cos x)\right]_0^\pi-\int_0^\pi f_n^\prime(x)(-\cos x) dx\\
&=\left[-f_n(x)\cos x\right]_0^\pi+\int_0^\pi f_n^\prime(x)\cos x dx\\
&=\left[-f_n(x)\cos x\right]_0^\pi+\left[f_n^\prime(x)\sin x\right]_0^\pi-\int_0^\pi f_n^{\prime\prime}(x)\sin x dx\\
&=\left[-f_n(x)\cos x\right]_0^\pi-\int_0^\pi f_n^{\prime\prime}(x)\sin x dx
\end{align*}となります。

これを繰り返し \((n+1)\) 回だけ用いることで
\begin{align*}
I_n
&=\left[-f_n(x)\cos x\right]_0^\pi-\int_0^\pi f_n^{\prime\prime}(x)\sin x dx\\
&=\left[-f_n(x)\cos x+f_n^{\prime\prime}(x)\cos x\right]_0^\pi+\int_0^\pi f_n^{(4)}(x)\sin x dx\\
&=\cdots\\
&=\left[\sum_{k=0}^n (-1)^{k+1}f_n^{(2k)}(x)\cos x\right]_0^\pi+(-1)^{n+1}\int_0^\pi f_n^{(2n+2)}(x)\sin x dx
\end{align*}となります。

ここで、\(f_n(x)\) は \(2n\) 次式でしたから \(f_n^{(2n+2)}(x)=0\) となりますね。

よって、
\begin{align*}
I_n
&=\left[\sum_{k=0}^n (-1)^{k+1}f_n^{(2k)}(x)\cos x\right]_0^\pi\\
&=\sum_{k=0}^n(-1)^k(f_n^{(2k)}(\pi)+f_n^{(2k)}(0))
\end{align*}が成り立つのです。

上記の微分係数 \(f_n^{(l)}(0)\) について考えましょう。(\(l=2k\) を想定しています。)

今、
\begin{align*}
f_n(x)
&=\frac{a^n}{n!}x^n(\pi-x)^n\\
&=\frac{a^n}{n!}x^n\left(\frac{b}{a}-x\right)^n\\
&=\frac{1}{n!}x^n(b-ax)^n\\
&=\frac{1}{n!}x^n\sum_{i=0}^n {}_n{\rm C}_ib^{n-i}(-a)^ix^i\\
&=\frac{1}{n!}\sum_{i=0}^n {}_n{\rm C}_i b^{n-i}(-a)^ix^{n+i}
\end{align*}のように、\(n\) 次以上の項だけの多項式に展開することができます。

  1. \(0\leq l<n\) のとき、\(l\) 次導関数 \(f_n^{(l)}(x)\) は \(x\) で割り切れるので \(f_n^{(l)}(0)=0\) です。
  2. \(n\leq l\leq 2n\) のとき、\(l\) 次の微分係数 \(f_n^{(l)}(0)\) は導関数 \(f_n^{(l)}(x)\) の定数項であって、それは元の関数 \(f_n(x)\) の \(l\) 次の項の係数に \(l!\) をかけたものです。\(l\) 次の項の係数は \(\dfrac{(\mbox{整数})}{n!}\) の形をしているので、\(n\leq l\leq 2n\) より、\(l!\) をかけると \(f_n^{(l)}(0)=(\mbox{整数})\) となります。

これより、上記の微分係数 \(f_n^{(l)}(0)\) は全て整数なのです!

また、関数 \(f_n(x)\) の定義を行なったときに注意したように、\(f_n(x)\) のグラフは \(x=\dfrac{\pi}{2}\) に関して対称です。これより、対称な位置の微分係数である \(f_n^{(l)}(0)\) と \(f_n^{(l)}(\pi)\) は異なるとしても符号の違いしか生じません。つまり、上記の微分係数 \(f_n^{(l)}(\pi)\) もまた全て整数なのです!

以上より、\(I_n\) の積分を実行した結果

「\(I_n\) は必ず整数になる」

ことが言えました!

積分値 \(I_n\) が \(0<I_n<1\) に収まる \(n\) が存在する?

積分値 \(I_n\) は、正の整数 \(n\) が何であっても整数になるのですね。

ここで、関数 \(f_n(x)\sin x\) のグラフの山の高さは \(\dfrac{a^n}{n!}\left(\dfrac{\pi}{2}\right)^{2n}\) でしたが、これ、\(n\) の数列になっていますよね。

「\(n\) を大きくしてゆくと、高さ \(h_n=\dfrac{a^n}{n!}\left(\dfrac{\pi}{2}\right)^{2n}\) はどのように変化すると思いますか?」

一般に “累乗より階乗の方が速く増加する’’ という事実をご存知の方は「分母の階乗の影響で \(0\) に近づいてゆくのでは?」と考えることができるかもしれません。ご存知でない方のために、\(n=1,2,\cdots,7\) の数列 \(\{h_n\}\) の値のイメージを書いておきます。

 

一度は増えるのですが、その後はどんどん減少してゆきますね。

こんな様子では「山の面積 \(I_n\) が常に整数でいるなんて不可能」じゃないですか?

そうなんです。それをきちんと示しましょう。

\(0\leq x\leq \pi\) における関数 \(f_n(x)\sin x\) の最大値は
$$
h_n=\frac{a^n}{n!}\left(\dfrac{\pi}{2}\right)^{2n}=\frac{1}{n!}\left(\dfrac{b\pi}{4}\right)^n
$$です。見やすくするために、正の数 \(\dfrac{b\pi}{4}\) を \(\alpha\) とおきましょう。つまり、\(f_n(x)\sin x\leq h_n=\dfrac{\alpha^n}{n!}\) ですね。

この評価の等号は \(0\leq x\leq \pi\) で常に成り立つわけではないので、積分を計算すると等号が消えます。実際、
$$
I_n=\int_0^\pi f_n(x)\sin x dx<\int_0^\pi h_n dx=h_n \pi
$$となります。

ここで、\(\alpha\) より大きな整数 \(N\) を考えます。このとき、\(n\) を \(N\) より大きくとると
\begin{align*}
h_n
&=\dfrac{\alpha^n}{n!}\\
&=\frac{\alpha}{1}\times\cdots\times\frac{\alpha}{N-1}\times\frac{\alpha}{N}\times\cdots\times\frac{\alpha}{n}\\
&<\frac{\alpha}{1}\times\cdots\times\frac{\alpha}{N-1}\times\frac{\alpha}{N}\times\cdots\times\frac{\alpha}{N}\\
&=\left(\frac{\alpha}{1}\times\cdots\times\frac{\alpha}{N-1}\right)\times\left(\frac{\alpha}{N}\right)^{n-N+1}
\end{align*}となります。

見にくいですね。

\(1\) 未満の正の数 \(\displaystyle \frac{\alpha}{N}\) を改めて \(r\) として
$$
c=\frac{\alpha}{1}\times\cdots\times\frac{\alpha}{N-1}
$$とおきましょう。

そうすると、
$$
h_n<cr^{n-N+1}
$$となります。

右辺は公比が \(0<r<1\) である等比数列ですので、\(n\) を大きくするといくらでも小さくなります。

例えば、
$$
h_n<\frac{1}{\pi}
$$となるような \(n\) も存在するというわけです!

 

議論も大詰めです。そのような(大きな)\(n\) について
$$
I_n<h_n \pi<\frac{1}{\pi}\times\pi=1
$$が成り立つのです!

\(I_n>0\) は明らかですから、

「\(0<I_n<1\) なる \(n\) が存在する」

ことが言えました!

矛盾が生じたということは…!

以上より、次のふたつが導かれました。

  1. 任意の \(n\) に対して \(I_n\) は必ず整数になる。
  2. ある \(n\) に対して \(0<I_n<1\) となる。

 

これらは辻褄が合いませんね。そう、矛盾が生じました。

つまり、自分が設けた「円周率 \(\pi\) は有理数である」という仮定が誤りだったということです!

これより、背理法から「円周率 \(\pi\) は有理数ではない」ことが結論されます。

そこで、円周率 \(\pi\) は実数であったので、無理数の定義から

「円周率 \(\pi\) は無理数である」

という結論を得るのです!!

 

– – – – – 証明終 – – – – –

 

お疲れ様でした。

 

最後に

いかがでしたか。円周率 \(\pi\) が無理数であることの証明、お楽しみいただけましたでしょうか。(執筆中の私はとても楽しんでおります。)

今回は、円周率 \(\pi\) の無理性の証明を行いましたが、その中で言及した

  • 背理法で無理性を示すときには実数であることが前提にあること
  • 累乗 \(\alpha^n\) と階乗 \(n!\) では階乗の方が速く増加してゆくこと

このふたつに関しては、他のテーマを考えるときにも議論の落とし穴になったり解決の鍵になったりする要素になります。頭の片隅にでも留めておいてください。

円周率 \(\pi\) が無理数であるということは、言い換えれば「有理数係数の1次方程式 \(ax+b=0\) の解にはなり得ない」ということですよね。

なんと、円周率 \(\pi\) は

「如何なる有理数係数の方程式の解にもなり得ない」

ことが言えるのです!

このような数を超越数と呼びます。気になる方は リンデマン=ワイエルシュトラスの定理’’ について調べてみてください。

 

Merry Christmas



AkiyaMath

コメント

タイトルとURLをコピーしました