「1=2」の証明で間違い探し! 〜お決まりのゼロ除算ではない??〜

代数

数学において何かを主張する際には、それが正しいことを厳密に説明しなければなりません。

数学という学問は証明の積み重ねによって成り立っているのです。

 

そんな証明を読み進めてゆく中で「誤りを含まないか」という検証する視点は必ず持ち合わせていたいものです。

そこで今回は「\(1=2\)」という誤った主張の証明をご紹介します。

自ら問題点を見出だし、その点について思考を巡らせてゆく、型にはまらない自由研究のような気持ちで読み進めていただければと思います。

 

自由に考えを広げることで、この問題のみならず、他の問題にも繋がる考察ができるかもしれません。

様々な問題が繋がりを持つことがわかると、数学との付き合いがより一層楽しいものになると思います。

 

「\(1=2\)」の “証明”

この主張は偽ですから、これから紹介する証明には誤りが含まれています。

「\(1=2\)」の証明の誤りを生む原因として

  • ゼロ除算」を認めたもの
  • 「虚数に対する指数法則」を拡大解釈したもの
  • 「無限級数の順序変更」を感覚的に行なったもの

等がよく知られていますが、今回はこのいずれでもありません。

みなさんは自力で誤りを指摘することができるでしょうか。

 

– – – – – “証明” – – – – –

関数 \(x^{x^{x^\cdots}}\) (\(x>0\)) を考える。

まず、
$$
x^{x^{x^\cdots}}=2
$$なる \(x\) を求めると、指数部分に同じ形があるので、\(x^2=2\) となる。よって、\(x>0\) より \(x=\sqrt{2}\) を得る。つまり、
\begin{align}
\sqrt{2}^{\sqrt{2}^{\sqrt{2}^\cdots}}=2\tag{1}
\end{align}となる。

次に、
$$
x^{x^{x^\cdots}}=4
$$なる \(x\) を求めると、同様に \(x^4=4\) となる。よって、\(x>0\) より \(x=\sqrt{2}\) を得る。つまり、
\begin{align}
\sqrt{2}^{\sqrt{2}^{\sqrt{2}^\cdots}}=4\tag{2}
\end{align}となる。

以上、式 (1) と式 (2) より \(2=4\) となり、両辺を \(2\) で割って
$$
1=2
$$を得る。

– – – – – “証明” 終 – – – – –

 

証明における怪しい点は?

証明を頭から見ていって、怪しい点を洗い出しましょう。

 

まずは前半

  • \(x^{x^{x^\cdots}}=2\) として良いのか?(そのような \(x\) は存在するのか?)
  • 存在するならば、\(x^2=2\) となるのは良い。
  • それを解いて、\(x=\sqrt{2}\) となるのも良い。

次に後半

  • \(x^{x^{x^\cdots}}=4\) として良いのか?(そのような \(x\) は存在するのか?)
  • 存在するならば、\(x^4=4\) となるのは良い。
  • それを解いて、\(x=\sqrt{2}\) となるのも良い。

最後に結論

  • 式 (1) と式 (2) より \(2=4\) とするのは良い。
  • 両辺を \(2\) で割ることも良い。

 

これより、関数 \(x^{x^{x^\cdots}}\) の定義域や値域が問題の鍵を握ることがわかりましたね。

それによって、\(x^{x^{x^\cdots}}=2\) としたことが誤りか、\(x^{x^{x^\cdots}}=4\) としたことが誤りか、或いは両方とも誤りか、わかることになるでしょう。

 

関数 \(f(x)=x^{x^{x^\cdots}}\) に関する考察

\(f(x)\) を数列 \(\{a_n\}\) によって厳密に定義する

関数 \(f(x)=x^{x^{x^\cdots}}\) は無限回の操作を含むので、極限を用いて定義される関数です。

具体的には、正の実数 \(a\) に対して
\begin{align*}
\begin{cases}
a_1=1&\\
a_{n+1}=a^{a_n}&(n=1,2,\cdots)
\end{cases}
\end{align*}によって数列 \(\{a_n\}\) を定義します。

このとき、数列 \(\{a_n\}\) が収束するような \(x=a\) に対して、その極限値を \(y\) とおきます。

これにより、関数 \(y=f(x)\) が定義されるのです。

\(y=f(x)\) という関係を書き換える

さて、関数 \(f(x)\) の定義域と値域を調べるために、変数 \(x\) と関数値 \(y\) の関係の書き換えを試みましょう。

正の実数 \(x\) に対して \(y=f(x)\) なる実数 \(y\) が存在するとします。

\(y=x^{x^{x^\cdots}}\) であるので、指数部分に同じ形が現れていることから
$$
y=x^{x^{x^\cdots}}=x^y
$$となりますね。

ここで、\(y=0\) とすると左辺は \(0\) で右辺は \(1\) となり矛盾します。

また、\(y<0\) とすると左辺は負で右辺は正となり矛盾します。

よって、\(y>0\) であるので、両辺を \(\dfrac{1}{y}\) 乗することができて
$$
y^{\frac{1}{y}}=x
$$を得ます。

つまり、関数 \(f(x)\) の値域を \(R\) とすると、\(R\) は正の実数からなる集合であって、\(f(x)\) は関数
$$
y=x^{\frac{1}{x}}\qquad(x\in R)
$$の逆関数であることが言えるのです。

 

関数 \(g(x)=x^{\frac{1}{x}}\) を用いた考察

\(g(x)\) の増減を調べる

関数 \(g(x)\) の定義域は \(R\) を含む正の実数全体です。

そこで、\(g(x)\) の増減を調べましょう。

 

今、\(g(x)=x^{\frac{1}{x}}=e^{\frac{1}{x}\log x}\) なので対数微分法を適用すると

\begin{align*}
g^\prime(x)
&=x^\frac{1}{x}\left(\frac{1}{x}\log x\right)^\prime\\
&=x^\frac{1}{x}\left(-\frac{1}{x^2}\log x+\frac{1}{x^2}\right)\\
&=x^{\frac{1}{x}-2}(1-\log x)
\end{align*}となります。

ここで、
\begin{align*}
\lim_{x\to+0}g(x)&=\lim_{x\to+0}e^{\frac{\log x}{x}}=0,\\
\lim_{x\to\infty}g(x)&=\lim_{x\to\infty}e^{\frac{\log x}{x}}=1
\end{align*}であるので、増減表及びグラフは以下のようになります。


\begin{align*}
\begin{array}{c||c|c|c|c}\hline
x&0&\cdots&e&\cdots\\ \hline
g^\prime(x)&\times&+&0&-\\ \hline
g(x)&\times&\nearrow&e^\frac{1}{e}&\searrow\\ \hline
\end{array}
\end{align*}

(このグラフは見易さの為に、グラフを \(y\) 軸方向に \(3\) 倍に拡大しています。)

\(f(x)\) の値域 \(R\) について調べる

さて、関数 \(f(x)\) は単調増加ですから、その逆関数 \(f^{-1}(x)\) も単調増加します。

よって、 \(f(x)\) の値域 \(R\) は、\(g(x)\) が単調増加する区間 \((0,e]\) の部分集合になっているのです!

つまり、「\(R\subset(0,e]\)」ですね。

 

我々が問題にしているのは、数列 \(\{a_n\}\) が \(2\) や \(4\) に収束する \(x\) は存在するか、すなわち、 \(2\) や \(4\) は \(R\) に属すか、ということです。

ここで、\(e=2.7182818284\cdots\) ですので、値域 \(R\) は \(4\) を含みません!!

そこで、\(R\) が \(2\) を含むか否かを調べてゆきます。

 

まず、\(\alpha\in R\) をとります。

このとき、\(a\in g(R)\subset\left(\left.0,e^{\frac{1}{e}}\right]\right.\) が存在して
\begin{align*}
f(a)&=\alpha\\
a&=g(\alpha)\\
a&=\alpha^{\frac{1}{\alpha}}\\
a^\alpha&=\alpha
\end{align*}となりますね。

よって、曲線 \(y=a^x\) と直線 \(y=x\) について考えます。

 

\(2\) が \(R\) に属すか否かを考えていたので、\(g(2)=2^{\frac{1}{2}}\)   を含む区間として \(1<a<e^{\frac{1}{e}}\) を考えます。

このとき、\(y=a^x\) のグラフと \(y=x\) のグラフによって、数列 \(\{a_n\}\) が \(\alpha\) に収束する様子を図示することができます。

厳密には、以下の手順を踏めば収束性を証明することが可能です。

これは大学入試レベルですので、ここでは証明は省略したいと思います。

  1. \(1<a<e^{\frac{1}{e}}\) であることから、\(1<\alpha<e\) であることを示す。
  2. 任意の自然数 \(n\) について、\(0<a_n<\alpha\) を示す。(数学的帰納法を使う!)
  3. 任意の自然数 \(n\) について、\(0<\alpha-a_{n+1}<(\log\alpha)(\alpha-a_n)\) を示す。(平均値の定理を使う!!)
  4. 数列 \(\{a_n\}\) が収束し、\(\displaystyle \lim_{n\to\infty}a_n=\alpha\) となることを示す。

(\(1<a<e^{\frac{1}{e}}\) としたのは、\(y=a^x\) の \(x=\alpha\) における接線の傾き \(\log\alpha\) が \(0\) から \(1\) の間に収まって欲しいからです。)

これより、「\(\left(1,e^{\frac{1}{e}}\right)\subset g(R)\)」すなわち「\(\left(1,e\right)\subset R\)」となりますね!!

故に、\(1<2<e\) より「\(2\in R\)」であることがわかりました。

\(f(x)\) の収束性に関してコメントします。

本記事では、\(2\in R\) かつ \(4\notin R\) がわかれば十分でしたが、せっかくなので関数
$$
f(x)=x^{x^{x^\cdots}}
$$について、少しコメントをしておきます。

 

上では区間 \(\left(1,e^{\frac{1}{e}}\right)\) 上で収束することを見ました。

実際に収束する範囲はもう少し大きく、区間 \(\left[\left(\dfrac{1}{e}\right)^e,e^{\frac{1}{e}}\right]\) 上で収束することが、数学者オイラーによって証明されています。

実際、正の数 \(a\) が \(1\) より小さい場合にも、\(y=a^x\) のグラフと \(y=x\) のグラフによって、数列 \(\{a_n\}\) が \(\alpha\) に収束する場合があることが見てとれます。

 

まだ示していない区間 \(\left[\left(\dfrac{1}{e}\right)^e,1\right]\) 上の場合を先ほどの1から4までの手順と同様に示すことは難しいです。(\(a=1\) の場合は \(\{a_n\}\) は定数列なので明らかに収束します。)

そこで、範囲をもう少し狭めて区間 \(\left(\dfrac{1}{e},1\right)\) 上にまで制限すると、先ほどと同様の考え方で収束性を証明することができます。

是非、こちらもチャレンジしてみてください。

 

これらを踏まえ、区間 \(\left[\left(\dfrac{1}{e}\right)^e,e^{\frac{1}{e}}\right]\) 上での関数 \(y=f(x)\) のグラフを書くことができます。

収束性さえわかってしまえば、関数 \(y=g(x)\) のグラフを直線 \(y=x\) に関して対称移動させれば良いので簡単ですね。

このグラフにおいても、\(y\) 軸上において \(\dfrac{1}{e}\) と \(e\) の間の有効な範囲に \(2\) があって、\(e\) より上の無効な範囲に \(4\) がありますよね。

 

証明を振り返ろう!

証明の何が誤りだったか

さて、\(f(x)\) すなわち \(x^{x^{x^\cdots}}\) のとりうる値の範囲 \(R\) には、\(2\) は属していますが、\(4\) は属しませんでした。

これより、

\(x^{x^{x^\cdots}}=2\) なる \(x\) は存在するが、
\(x^{x^{x^\cdots}}=4\) なる \(x\) は存在しない。

ことが言えるのです。

つまり、

「\(x^{x^{x^\cdots}}=4\) とおいたのが誤り」

ということですね。

正しそうだったわけ

最初の “証明” が正しそうに見えたのは、\(4\) が \(2\) と同じような役割を果たしていたからですよね。

なぜ \(2=4\) の \(4\) が出てきたのかというと、この \(y=g(x)\) のグラフ

を見ていただければわかるように、
\begin{align*}
g(2)&=2^\frac{1}{2}=\sqrt{2},\\
g(4)&=4^\frac{1}{4}=\sqrt{2}
\end{align*}であるので、\(g(x)=\sqrt{2}\) から逆に辿ると \(x=2,4\) が出てきてしまう、という理屈でした。

(このグラフは見易さの為に、グラフを \(y\) 軸方向に \(3\) 倍に拡大しています。)

 

最後に

今回は「\(1=2\)」の証明の誤りを探し出すという自由研究的な頭の体操をしてきました。

 

ここまでの考察を用いることで

  • 曲線 \(y=a^x\) と直線 \(y=x\) が接するような正の数 \(a\) の値

が求められたり、

  • \(m^n=n^m\) なる正の整数 \(m<n\) の組が \((m,n)=(2,4)\) しか存在しないこと

が証明できたり、

  • \(\pi^e\) と \(e^\pi\) の大小関係

が判定できたりします。

是非、考えてみてください!

 

数学は、あるひとつの問題を深く考えていると、思いもしない他の問題の解決の鍵が手に入ることがあるものです。

証明の誤り見抜くという今回のテーマを通して、自分の頭で考えて議論することの大切さ、自由に思考することの楽しさを感じていただけていれば嬉しいです。

AkiyaMath

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