双曲線関数を導出せよ!(後編) 〜あの置換積分のカラクリを解き明かす〜

代数

双曲線関数は三角関数の類似として定義されます。三角関数の変数は角度に由来していましたが、双曲線関数の変数はどのような意味を持つでしょうか?

双曲線関数にも「倍角の公式」がありましたから、やはり「角度」なのでしょうか?

今回はまず、三角関数の定義を別角度から眺めた後、その考察を基にして双曲線関数について議論したいと思います。

また、本記事で扱うもうひとつのテーマとして、双曲線関数を用いることで高校数学における「置換積分のカラクリ」を解き明かしたいと思います。それを通して、高校数学の世界の設定の「上手さ」を感じていただけたらと思います。

では、三角関数の復習から始めましょう。(本記事では \(\tan\theta\) 及び \(\tanh\theta\) は扱わないこととします。)

本記事は【双曲線関数シリーズ】の後編です。

前編はこちら「双曲線関数を導出せよ!(前編) 〜複素数の世界で繋がっている〜

 

三角関数の変数が持つ意味を考える

三角関数の定義を復習しよう

まず初めに、三角関数 \(\cos\theta\), \(\sin\theta\) の定義を思い出しましょう。

座標平面上に原点中心の単位円 \(O\) を描きます。原点を端点とする半直線 \(l\) で、\(x\) 軸の正の向きとなす角が反時計回りに \(\theta\) であるようなものを考えます。このとき、円 \(O\) と半直線 \(l\) の交点 \({\rm P}\) は唯一つであるので、その \(x\) 座標と \(y\) 座標は \(\theta\) の関数です。

ここで、その座標を表す関数を
\begin{align*}
x&=\cos\theta,\\
y&=\sin\theta
\end{align*}という記号で表すことにします。

三角関数の別名とは

三角関数の変数 \(\theta\) は、半直線 \(l\) が \(x\) 軸の正の向きと反時計回りになす角でした。弧度法で考えれば、それは円 \(O\) から \(x\) 軸の正の向きと半直線 \(l\) が切り取った扇型の弧の長さになっていました。そこで、切り取られたその扇形について考えると、半径が \(1\) ですので面積は \(\dfrac{\theta}{2}\) であることがわかります。

この面積の言葉を使えば、\(0\leq\theta<2\pi\) において、\(x=\cos\theta\) と \(y=\sin\theta\) の定義は

「単位円 \(O\) から \(x\) 軸の正の向きと半直線 \(l\) が切り取る扇型の面積が \(\dfrac{\theta}{2}\) となるような点 \({\rm P}\) の座標 \((x,y)\)」

と言い換えることができます。そして、一般の \(\theta\) については「\(\cos\theta\) と \(\sin\theta\) は周期 \(2\pi\) を持つ」ものとして拡張されます。このように、三角関数は円の様々な情報によって特徴付けられることから、「円関数」とも呼ばれます。

角度ではなく面積に着目しようというのは、ひとつの発想の転換ですね。そこで、円は二次曲線のひとつでしたが、「他の二次曲線に同じような議論が適用できないか」考えます。円関数があるなら “楕円関数”, “放物線関数”, “双曲線関数” も同様に定義できるのか?

考えてゆきましょう。

 

双曲線関数誕生までの経緯を辿る

三角関数を定義した単位円を表す方程式は \(x^2+y^2=1\) です。二次曲線のうち、これに似た方程式を持つものとして、双曲線 \(x^2-y^2=1\) があります。これを本記事では特別に「単位双曲線」と呼ぶことにしましょう。

面積を求める関係式を立てる

さて、三角関数のときのように「単位双曲線 \(O\) と \(x\) 軸の正の向きと半直線 \(l\) が囲む領域 \(D\) の面積」を考え、それが \(\dfrac{\theta}{2}\) であるとしておきましょう。

ここで、\({\rm P}(X,Y)\) とおくと \(X>0\) であるので、\(X^2-Y^2=1\) より
$$
X=\sqrt{Y^2+1}
$$と書くことができます。そこで、点 \({\rm P}\) から \(y\) 軸に下ろした垂線の足を \({\rm H}\) とおきます。このとき、領域 \(D\) と三角形 \(O{\rm PH}\) の面積を考えれば
\begin{align}
\frac{\theta}{2}+\frac{XY}{2}=\int_0^Y\sqrt{y^2+1}dy\tag{1}
\end{align}が成り立ちます。

 

目標は、式 (1) をもとにして

「\(X\), \(Y\) を \(\theta\) の関数として書き表すこと」

です。そのために、右辺の積分計算をしてゆきましょう。

不定積分の準備

準備として、不定積分を計算してしまいましょう。

まず、
$$
F(y)=\int\sqrt{y^2+1}dy
$$とおくと、部分積分をすることによって
\begin{align*}
F(y)
&=\int\sqrt{y^2+1}dy\\
&=\int(y)^\prime\sqrt{y^2+1}dy\\
&=y\sqrt{y^2+1}-\int y\left(\sqrt{y^2+1}\right)^\prime dy\\
&=y\sqrt{y^2+1}-\int y\frac{y}{\sqrt{y^2+1}}dy\\
&=y\sqrt{y^2+1}-\int\frac{(y^2+1)-1}{\sqrt{y^2+1}}dy\\
&=y\sqrt{y^2+1}-\int\left(\sqrt{y^2+1}-\frac{1}{\sqrt{y^2+1}}\right)dy\\
&=y\sqrt{y^2+1}-F(y)+\int\frac{1}{\sqrt{y^2+1}}dy
\end{align*}すなわち
$$
F(y)=\frac{1}{2}\left\{y\sqrt{y^2+1}+\int\frac{1}{\sqrt{y^2+1}}dy\right\}
$$となります。

次に、新しく現れた不定積分 \(\displaystyle\int\frac{1}{\sqrt{y^2+1}}dy\) を計算します。ここで、“\(y+\sqrt{y^2+1}=t\) とおく”
\begin{align*}
y+\sqrt{y^2+1}&=t\\
\left(1+\frac{y}{\sqrt{y^2+1}}\right)dy&=dt\\
\frac{\sqrt{y^2+1}+y}{\sqrt{y^2+1}}dy&=dt\\
\frac{t}{\sqrt{y^2+1}}dy&=dt\\
\frac{1}{\sqrt{y^2+1}}dy&=\frac{1}{t}dt
\end{align*}となるので、\(C\) を積分定数として
\begin{align*}
\int\frac{1}{\sqrt{y^2+1}}dy
&=\int\frac{1}{t}dt\\
&=\log|t|+C\\
&=\log\left(y+\sqrt{y^2+1}\right)+C
\end{align*}となります。

以上より、\(C\) を積分定数として
\begin{align}
F(y)=\frac{1}{2}\left\{y\sqrt{y^2+1}+\log\left(y+\sqrt{y^2+1}\right)\right\}+C\tag{2}
\end{align}と書くことができました。

双曲線関数の誕生!

さて、式 (2) を式 (1) に適用すると、\(F(0)=0\) であることから
\begin{align}
\frac{\theta}{2}+\frac{XY}{2}&=\int_0^Y\sqrt{y^2+1}dy\\
\frac{\theta}{2}+\frac{XY}{2}&=\left[F(y)\right]_0^Y\\
\frac{\theta}{2}+\frac{XY}{2}&=\frac{1}{2}\left\{Y\sqrt{Y^2+1}+\log\left(Y+\sqrt{Y^2+1}\right)\right\}\\
\theta+XY&=Y\sqrt{Y^2+1}+\log\left(Y+\sqrt{Y^2+1}\right)\\
\theta+XY&=XY+\log\left(Y+\sqrt{Y^2+1}\right)\\
\theta&=\log\left(Y+\sqrt{Y^2+1}\right)\tag{3}
\end{align}のようになります。

そこで、

まずは式 (3) を \(Y\) について解いて、
次に \(X=\sqrt{Y^2+1}\) で \(X\) を求めて…

としても構いませんが、ここでは少し工夫をして、\(X\) と \(Y\) を同時に求めたいと思います。

式 (3) より \(\theta=\log(X+Y)\) なので \(X+Y=e^\theta\) となります。つまり、\(X\) と \(Y\) は
\begin{align}
\begin{cases}
X+Y=e^\theta&\\
X^2-Y^2=1&
\end{cases}\tag{4}
\end{align}を満たすのです。第二式より \(1=X^2-Y^2=(X+Y)(X-Y)\) なので、第一式より \(X-Y=e^{-\theta}\) となります。よって、\(X\) と \(Y\) は
\begin{align}
\begin{cases}
X+Y=e^\theta&\\
X-Y=e^{-\theta}&
\end{cases}
\end{align}を満たすので、これらの和と差を \(2\) で割れば
\begin{align*}
X&=\frac{e^\theta+e^{-\theta}}{2}=\cosh\theta,\\
Y&=\frac{e^\theta-e^{-\theta}}{2}=\sinh\theta
\end{align*}となります。

いかがでしょうか、スッキリ求まりましたね。

以上より、面積によって定まっていた \(\theta\) から、双曲線関数 \(\cosh\theta\), \(\sinh\theta\) が出現しました。三角関数の変数も面積に由来するという考え方があると紹介しましたが、その考え方を双曲線に適用すると双曲線関数が現れましたね。

今、考えている双曲線において、角度と面積は比例しないので、角度に由来するとは言えません。あくまで、面積に由来するのです。

双曲線関数の逆関数について一言

ここで、みなさんに質問です。

「\(\sinh x\) の逆関数は求められますか?」

実は、我々は既に答えを知っています。式 (3) を見てみると、\(Y=\sinh\theta\) を \(\theta\) について解いた形になっていますよね。つまり、

「\(\sinh x\) の逆関数は \(\log\left(x+\sqrt{x^2+1}\right)\)」

でした。

今、驚きの事実が判明しましたね。双曲線関数は、三角関数とは異なり、直接ではなく

“逆関数が先に誕生した”

のです!ただ、通常は指数関数による表示を定義としてしまうので、実感することは少ないと思います。「\(\sinh x\) の逆関数を求めよ。」という演習問題が出るくらいですから…。

 

“あの置換” の謎を解き明かす

“あの置換” とは

“あの置換” とは、不定積分の準備の際に \(\displaystyle \int\frac{1}{\sqrt{y^2+1}}dy\) を計算しましたが、そのときに行った

\(y+\sqrt{y^2+1}=t\)

という置換です。恐らく、多くの方が高校数学の数学IIIの積分法で “\(t=x+\sqrt{x^2+1}\)” という形でこの置換に出逢ったかと思います。(今回は、式の意味を理解するため \(x\) ではなく \(y\) を使います。)

私を含め、

「なんでこんな置換が思いつくんだ!」
「“上手くいくから” じゃ納得できない!」

と感じた方は少なくないと思います。そこで最後に、この置換の謎を解き明かしたいと思います。

双曲線関数で置換していた!?

双曲線関数を学んだ我々が
$$
\int\frac{1}{\sqrt{y^2+1}}dy
$$という積分を目にしたとき、実践したい置換は双曲線関数 \(\sinh\theta\) を用いた置換です。

なぜならば、今、
$$
\int\frac{1}{\sqrt{1-y^2}}dy
$$という積分に対しては、\(y=\sin\theta\) と置換していました。それは、\(y=\sin\theta\) \(\displaystyle \left(-\frac{\pi}{2}\leq\theta\leq\frac{\pi}{2}\right)\) なら \(\sqrt{1-y^2}=\cos\theta\) と直ちにわかるからです。

今回、\(\sqrt{y^2+1}\) を含んでいますから、\(x=\sqrt{y^2+1}\) としてみると単位双曲線 \(x^2-y^2=1\) (但し、\(x>0\)) を得ます。つまり、\(y=\sinh\theta\) なら \(\sqrt{y^2+1}=x=\cosh\theta\) と直ちにわかるので、そのように置換する意味があるのです。

 

実際に計算してみましょう。

\(y=\sinh\theta\) とおくと、\(dy=\cosh\theta d\theta\) となるので
\begin{align*}
\int\frac{1}{\sqrt{y^2+1}}dy
&=\int\frac{1}{\cosh\theta}\cosh\theta d\theta\\
&=\int1d\theta\\
&=\theta+C
\end{align*}となります。(但し、\(C\) は積分定数です。)

我々は \(y=\sinh\theta\) の逆関数を知っていましたから、必要であれば
$$
\int\frac{1}{\sqrt{y^2+1}}dy=\log\left(y+\sqrt{y^2+1}\right)+C
$$と書き換えることができます。

ここで、\(\theta=\log\left(y+\sqrt{y^2+1}\right)\) より
$$
t=y+\sqrt{y^2+1}=e^\theta
$$となります。つまり、高校数学では双曲線関数を定義していないため、

「本来 \(y=\sinh\theta\) で置換したいところを、
その構成要素である \(e^\theta\) を使って、
さらに \(t=e^\theta\) とおいていたのです。」

それを、\(\theta\) を介さずに書くと「\(t=y+\sqrt{1+y^2}\)」となってしまうということでした。

謎が呼ぶ謎の置換(自由研究として)

最後に、ここまで見てきた置換を真似て、
$$
\int\frac{1}{\sqrt{1-y^2}}dy
$$を \(y=\sin\theta\) と置換せずに解いてみましょう。

前編で行なった三角関数の定義
\begin{align}
\cos\theta&=\frac{e^{i\theta}+e^{-i\theta}}{2},\tag{8}\\
\sin\theta&=\frac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{2i}\tag{9}
\end{align}の構成要素である \(e^{i\theta}\) を文字 \(t\) でおきます。そうすると、\(y=\sin\theta\) \(\displaystyle \left(-\frac{\pi}{2}\leq\theta\leq\frac{\pi}{2}\right)\) より
\begin{align*}
t
&=e^{i\theta}\\
&=\cos\theta+i\sin\theta\\
&=\sqrt{1-y^2}+iy
\end{align*}となります。

そうです、虚数を使った置換になるのです。

\(t=\sqrt{y^2+1}+y\) とおいて 不定積分 \(\displaystyle \int\frac{1}{\sqrt{y^2+1}}dy\) を計算したときのように、この置換 \(t=\sqrt{1-y^2}+iy\) を用いて、不定積分 \(\displaystyle \int\frac{1}{\sqrt{1-y^2}}dy\) を計算することは可能でしょうか?

 

この先の考察はみなさんの自由研究にお任せしたいと思います。

  • ヒント1:\(i\) を実定数のように扱って \(t=\sqrt{1-y^2}+iy\) の両辺を \(y\) で微分してみると不定積分 \(\displaystyle \int\frac{1}{\sqrt{1-y^2}}dy\) がわかる?
  • ヒント2:一方で \(y=\sin\theta\) \(\displaystyle \left(-\frac{\pi}{2}\leq\theta\leq\frac{\pi}{2}\right)\) とおくと \(\displaystyle \int\frac{1}{\sqrt{1-y^2}}dy=\theta+C\) であったが、\(t=\sqrt{1-y^2}+iy\) と置換した場合と比較すると、\(\sin\theta\) の逆関数がわかる?
  • ヒント3:そもそも双曲線関数の場合の \(y\) を \(iy\) に置き換えただけ?

この置換が実数の範囲に収まらないこと、逆関数が実数の範囲で完結した形で書けないことなどが三角関数と双曲線関数の違いですね。

前編でも確認しましたが、三角関数は双曲線関数とは異なり「虚数を用いて表示される実数上の関数」でした。その特徴が良く作用するときもあれば、悪く作用するときもあるようですね。

 

最後に

今回は、三角関数の振り返りから始めて、双曲線関数の変数の意味付けを行いました。また、双曲線関数によって、高校数学で行われる置換 “\(t=x+\sqrt{x^2+1}\)” の謎を解明しました。

高校数学は上手いことできているなと感心します。

三角関数で素直に \(y=\sin\theta\) と置換していたが、双曲線関数では直接的に置換せず \(t=e^\theta\) かつ \(y=\sinh\theta\) となるように置換する。双曲線関数は定義さえすれば素直に置換できるが、三角関数は \(t=e^{i\theta}\) かつ \(y=\sin\theta\) としてしまうと虚数が絡んで困難な道となる。

高校生のうちにここまで理解することは難しいでしょうが、振り返って、高校数学という世界の「上手さ」を感じることのできる話題だと思います。

AkiyaMath

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