双曲線関数を導出せよ!(前編) 〜複素数の世界で繋がっている!?〜

数学小話

みなさん

「サイン!」
「コサイン!!」
「タンジェント!!!」

聞いたことがありますよね。そうです、三角関数です。

高校数学において、図形の問題で長さや面積、体積を計算するときの三角比から始まり、三角関数の組み合わせにより周期性を持った関数の解析を行なったりした経験があると思います。

本記事では、そんな三角関数に類似した関数である “双曲線関数’’ を定義します。このふたつの関数は切っても切れない関係にあるのですが、その「架け橋」は実数の世界ではなく複素数の世界に存在するのです。

今回の話題は三角関数から始まり、実数の世界と複素数の世界を行き来しながら “双曲線関数’’ を定義します。実数と複素数という異なる世界を行き来する様子と、ふたつの関数の繋がりの強さを一緒に見てゆきましょう。

本記事は【双曲線関数シリーズ】の前編です。

 

三角関数を複素数の世界に連れてゆく

オイラーの公式の復習

まず、オイラーの公式について復習しましょう。

オイラーの公式とは、実数 \(\theta\) に対して成り立つ
$$
e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta
$$という等式です。オイラーの公式の導出についてはこちらの記事「「iのi乗」は実数?虚数?それとも…。証明せよ。 〜指数の拡張〜」をご覧ください。

三角関数と指数関数の関係式

オイラーの公式は「三角関数を用いて指数関数を表現する式」です。これを用いて、逆に「指数関数を用いて三角関数を表現する式」を導きたいと思います。

複素数 \(e^{i\theta}\) の実部と虚部が三角関数 \(\cos\theta\) と \(\sin\theta\) であるので
\begin{align*}
\cos\theta&=\frac{e^{i\theta}+\overline{e^{i\theta}}}{2}=\frac{e^{i\theta}+e^{-i\theta}}{2}\\
\sin\theta&=\frac{e^{i\theta}-\overline{e^{i\theta}}}{2i}=\frac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{2i}
\end{align*}と書き表すことができます。

三角関数の定義を拡張する

もともと、三角比は直角三角形の辺の比として定義されていました。そこで、角を直角または鈍角な場合に拡張し、さらに変数を実数全体とするために単位円周上の点の座標を用いて三角関数が定義されていたのでした。

そんな三角関数ですが、扱う数の範囲を複素数まで広げることで
\begin{align}
\cos\theta&=\frac{e^{i\theta}+e^{-i\theta}}{2},&
\sin\theta&=\frac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{2i}\tag{1}
\end{align}という関係式を得ました。

ここで、指数関数に関しては、複素数 \(z=a+ib\) に対して
$$
e^z=e^ae^{ib}=e^a(\cos b+i\sin b)
$$と計算することができます。つまり、指数関数で表現できる関数は複素変数に拡張できるのです!

三角関数の更なる拡張を目指し、この式 (1) を「新しい三角関数の定義」としましょう。これで、\(\theta\) が複素数の範囲を動いた場合でも三角関数 \(\cos\theta\), \(\sin\theta\) が計算できるようになりました。

 

双曲線関数を定義する

三角関数を実数の世界へ引き込む

改めて、実数 \(\theta\) に対する三角関数も、式 (1) を見てみると虚数単位 \(i\) を用いて書き表されています。虚数を用いて実数を定義していることに、“美しさ” を感じる人もいれば、“気持ち悪さ” を感じる人もいるでしょう。良くも悪くも、その感覚からヒントを得て、この三角関数の表示を実数の世界に引き摺り込もうと思います。

具体的には

\(e^{i\theta}\) や \(e^{-i\theta}\) を \(e^\theta\) や \(e^{-\theta}\) に置き換える

のです!(同時に \(\sin\theta\) の分母の \(i\) も取り除きます。)

これにより、“紛れもない’’ 実数値関数
\begin{align*}
&\frac{e^\theta+e^{-\theta}}{2},&
&\frac{e^\theta-e^{-\theta}}{2}
\end{align*}を得るのです。

双曲線関数の誕生!

この関数を双曲線関数と呼び
\begin{align}
\cosh\theta&=\frac{e^\theta+e^{-\theta}}{2},&
\sinh\theta&=\frac{e^\theta-e^{-\theta}}{2}\tag{2}
\end{align}と書きます。

ここで、\(\cosh\) は「ハイパボリックコサイン」と呼びますが、長いので「コッシュ」と呼ぶこともあります。また、\(\sinh\) は「ハイパボリックサイン」と呼びますが、長いので「シャイン」と呼ぶこともあります。

\(\theta\) が実数であるとき双曲線関数は実数値ですが、驚くべきことに、双曲線関数はそのまま複素関数になります!なぜなら、指数関数のみで表現できているからです。

それを踏まえ、三角関数の定義 (1) と双曲線関数の定義 (2) を見比べてみると
\begin{align}
\cosh(i\theta)&=\cos\theta,&
\sinh(i\theta)&=i\sin\theta\tag{3}
\end{align}という関係が成り立っていることがわかりますね。共に実数値関数であった三角関数と双曲線関数は、複素数まで世界を広げると式 (3) によって切っても切れない関係となっていたのです。

ちなみに、双曲線関数についてオイラーの公式のようなものを作ろうとすると
\begin{align}
e^\theta=\cosh\theta+\sinh\theta\tag{4}
\end{align}となります。

 

双曲線関数の諸性質

双曲線関数を特徴付ける性質

三角関数といえば、それを特徴付ける性質として相互関係の式 \(\cos^2\theta+\sin^2\theta=1\) がありました。これは複素数の範囲でも成り立つので、双曲線関数にも対応する性質があるはずですよね。

式 (3) において \(\theta\) を \(-i\theta\) で置き換えると
\begin{align*}
\cos(-i\theta)&=\cosh\theta,&
\sin(-i\theta)&=-i\sinh\theta
\end{align*}となります。これを三角関数の相互関係の式に代入してみましょう。計算を進めると
\begin{align*}
\cos^2(-i\theta)+\sin^2(-i\theta)&=1\\
(\cosh\theta)^2+(-i\sinh\theta)^2&=1\\
\cosh^2\theta-\sinh^2\theta&=1
\end{align*}が成り立ちます!

そうです。

三角関数は「2乗の\(=1\)」でしたが、双曲線関数は「2乗の\(=1\)」になるのです!(これは、実際に定義 (2) から計算してもわかります。そちらの方が一般的な証明ですが、天下り的な印象を与えないために今回のような方法で説明しました。)

\(x^2-y^2=1\) が直角双曲線を表すことから、双曲線関数はこの双曲線上の点の座標として考えることもできますね。(むしろ、この考え方があるから「双曲線」関数と呼んでいるのですが…。)

双曲線関数の微分公式

双曲線関数には、三角関数のものに対応する性質がたくさんあります。加法定理や倍角の公式もありますが、今回は微分公式の証明をしたいと思います。指数関数で表されているので微分可能で、計算も簡単です。

 

– – – – – 証明 – – – – –


\begin{align*}
\{\cosh\theta\}^\prime
&=\left\{\frac{e^\theta+e^{-\theta}}{2}\right\}^\prime\\
&=\frac{e^\theta-e^{-\theta}}{2}\\
&=\sinh\theta
\end{align*}


\begin{align*}
\{\sinh\theta\}^\prime
&=\left\{\frac{e^\theta-e^{-\theta}}{2}\right\}^\prime\\
&=\frac{e^\theta+e^{-\theta}}{2}\\
&=\cosh\theta
\end{align*}

– – – – – 証明終 – – – – –

 

微分することで互いに変化し合うのですね。三角関数とは異なり、符号も変わらないので “素直な’’ 印象です。

 

最後に

今回は、三角関数と複素数の世界で繋がっている双曲線関数について扱ってきました。双曲線関数は三角関数と強く繋がっているため、

  • 三角関数でできていることを双曲線関数でもできないか挑戦してみる。
  • 場合分けの一方で三角関数を使っているから、もう一方で双曲線関数を使う。

なんてこともあります。

さて、三角関数の変数には元々、角度に由来するものでした。双曲線上の点を表していた双曲線関数の変数にはどのような意味があるでしょうか?倍角の公式があるのなら、やはり角度でしょうか?

それとも…。

これは次回、後編のテーマとしたいと思います。

 

最後に、双曲線関数には「ハイパボリックタンジェント」と呼ばれる関数 \(\tanh\theta\) があります。これは、\(\tan\theta\) のようにして
\begin{align}
\tanh\theta=\frac{\sinh\theta}{\cosh\theta}\tag{5}
\end{align}と定義されます。こちらの微分公式も是非、確認してみてくださいね。

AkiyaMath

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