みなさん、算数や数学は得意でしょうか?
私自身は算数が苦手で、小学2年生の九九のテストでは足し算を駆使して乗り切った覚えがあります…。
算数や数学が苦手な方から「数学は計算さえできれば良い」という言葉を聞くことがあります。本記事では、苦手な人にとっても重要である数の計算について、考えを深めてゆこうと思います。
是非、最後のまとめまで読み進めてみてください。
ゼロ除算に着目する理由
みなさんが普段から扱っている「数」には、ご存知の通り、四則演算と呼ばれる次の演算が存在します。
\begin{align*}
加法&\ \colon a+b,&
減法&\ \colon a-b,\\
乗法&\ \colon a\times b,&
除法&\ \colon a\div b\quad(但し、b\neq 0)
\end{align*}
これらの四則演算が自由に行える数の集合のことを「体」(たい)と呼びます。(有理数全体や実数全体、複素数全体はいずれも体となります。)
体では四則演算が自由に行えると書きましたが、但し書きが1つだけありますね。除法、つまり、わり算において “ \(0\) で割ってはいけない ” とされています。
「なぜ禁止されているのでしょうか?」
この \(1\div0\), \(5\div0\), \(0\div0\) といった \(0\) によるわり算には「ゼロ除算」(ぜろじょざん)という名前がついています。本記事は、小学生の頃から禁止されているこのゼロ除算をテーマとして扱います。
規則はもちろん守るべきものですが、それを破ったときに何が起こるのか。
また、その規則がある理由も知らずに、ただただそれに従うのか。
そのような思いから、今回はこのテーマを扱うことにしました。
みなさんに質問です
さて、みなさんに質問をしたいと思います。
$$
1 \div 0
$$
このゼロ除算について、次の3択のうち、ご自身の考えに近いものを選んでください。
- そんな計算はできない。
- 実は計算できて、答えは \(\infty\)(無限大)になる。
- 実は計算できて、答えは \(0\) になる。
それぞれについて、考えてゆきます。
選択肢A. ゼロ除算の不可能性
選択肢Aの考えを正しいと結論づけるためには、\(1 \div 0\) が計算できると仮定したときに、何かしら矛盾が生ずればよいですね。
そうすれば、その仮定をしたことが誤りで、\(1 \div 0\) は計算できないことが結論されます。(背理法という証明法です。)
それでは、\(1 \div 0\) が計算できると仮定しましょう。
\(1 \div 0\) というわり算は、\(1 \times \dfrac{1}{0}\) というように、\(0\) の逆数である \(\dfrac{1}{0}\) とのかけ算によって定義されます。これより、仮定したことから \(0\) の逆数 \(\dfrac{1}{0}\) が存在することが言えます。
数 \(x\) の逆数とは、\(xy=1\) となるような数 \(y\) のことでした。ここで、\(x=0\) として考えると、\(y=\dfrac{1}{0}\)であって、
\begin{align}
0\times\dfrac{1}{0}=1\tag{1}
\end{align}となります。
一方、体における \(0\) という数は、どんな数 \(a\) に対しても \(0\times a=0\) となる重要な(証明すべき)性質を持っています。ここで、\(a=\dfrac{1}{0}\)として考えると、
\begin{align}
0\times\dfrac{1}{0}=0\tag{2}
\end{align}となります。
以上の式 \((1), (2)\) より、
$$
1=0
$$
という等式が導かれました。これは、我々の扱う数ではありえない式ですね。これは矛盾ですので、仮定が誤りであることが結論されました。
つまり、我々の扱う数の体を考えたとき、\(1\neq 0\) であるということから、\(1\div0\) が計算不可能であるということが示されました。
選択肢B.「 1÷0=∞ 」
選択肢Aの考察より、選択肢Bは数学的には誤りとなります。
この選択肢を選ぶ理由としては、主に以下の2つがあると思います。
-
\(1\div0\) とは、\(1\) の中に \(0\) が何個あるかを表している。そこで、\(1\) から \(0\) を何回引くことができるか考えると、何回でも引くことができるので、その答えは無限大となる。
- 極限の考え方を用いれば
\begin{align}
\frac{1}{1} &=1\\
\frac{1}{0.1} &=10\\
\frac{1}{0.01} &=100\\
&\vdots\\
\frac{1}{0.0000000001} &=10000000000\\
&\vdots
\end{align}
のように、左辺の分母を0に近づけてゆくとその逆数はいくらでも大きくできるので、右辺は無限大となる。
以上の考察の共通した問題点としては、計算結果となっている無限大「\(\infty\)」は体の数ではないということです。
仮に、無限大が体に含まれるとします。このとき、\(1+\infty\) はどんな数よりも大きい数であるので、\(1+\infty=\infty\) となります。体の性質より、両辺から \(\infty\) を引くと \(1=0\) となりますが、これは矛盾しています。選択肢Aのときと同様に、背理法によって無限大は体の数ではないことが示されました。
実は、体であるという条件を放棄すれば、選択肢Bが正しくなる数の世界も存在します。
(ここで詳しく述べることは避けますが、複素数全体を平面と見做した複素数平面において、無限遠点 “\(\infty\)” を1点追加することで複素数を拡張する方法があります。余力のある方、興味のある方は「リーマン球面」について調べてみてください。)
選択肢C.「 1÷0=0 」
選択肢Aの考察より、選択肢Cも数学的には誤りとなります。
実は、選択肢Bのときと同様に、選択肢Cが正しくなる数の世界もあります。それは、我々の扱う数とは全く別に「\(1=0\) である体」を考えれば良いのです。このとき、
\begin{align}
1\div 0=1\times\frac{1}{0}=0\times\frac{1}{0}=0
\end{align}が成り立ちます。
ちなみに、そのような数の世界は「自明な体」と呼ばれ、数が \(0\) しか存在しない世界になります。実際、如何なる数 \(a\) に対しても
\begin{align}
a=1\times a=0\times a=0
\end{align}となってしまい、数が \(0\) しかないことがわかります。
まとめ
我々の扱う数には「体である」という性質と「\(1\neq 0\) である」という性質がありました。
この2つを両立したとき、選択肢Aで見たように、ゼロ除算は不可能であると結論されます。
しかし、「体である」という条件を外すと「\(1\div 0=\infty\)」という選択肢Bの計算が可能となりました。
また、「\(1\neq 0\) である」という条件を外すと「\(1\div 0=0\)」という選択肢Cの計算が可能となりました。
さて、本記事のタイトルの答え合わせをしましょう。
- 数に対する四則演算を自由に行いたいので、体であるという条件は外したくない。
- また、\(1=0\) である自明な体は例外的で、数学的につまらないので除外したい。
以上の理由により、ゼロ除算は計算不可能になるので禁止されているのです。
我々が普段から日常で使っている数である実数は、もちろん自明でない体の数ですからゼロ除算は計算できません。
その一方で、選択肢Bや選択肢Cで見たように、ゼロ除算が可能な数の世界も確かに存在すること、これも頭の片隅に置いておいてくださいね。
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