前回までは、3次方程式の解の表示について徹底的に考察してきました。今回は、今までに得た知識を用いて「自分だけの入試問題」を作成することを目指します。強力な遊び道具を手にした我々は、新しい遊びを覚え、暇な時間を潰してゆくことでしょう。
本題に入る前に
$$
\sqrt[3]{\frac{10\sqrt{3}}{9}-2}-\sqrt[3]{\frac{10\sqrt{3}}{9}+2}
$$を簡単にせよ、という問題は解くことができますか?
本記事ではこのような問題を自作します。勿論、解き方も説明するのでご安心ください。(作問できるのだから解けて当たり前だと切り捨てたりはしません。)
本記事は【3次方程式の解の公式シリーズ】の第5弾(最終)です。
- 第1弾はこちら「3次方程式の解の公式(第1弾) 〜カルダノの公式〜」
- 第2弾はこちら「3次方程式の解の公式(第2弾) 〜三角関数で解を記述しよう!〜」
- 第3弾はこちら「3次方程式の解の公式(第3弾) 〜双曲線関数でも解を記述できる!?〜」
- 第4弾はこちら「3次方程式の解の公式(第4弾) 〜解の見事な配置〜」
問題作成に用いる3次方程式の知識
実数係数の3次方程式
$$
x^3-3px-2q=0
$$(但し、\(p\neq0\) とする)を考えます。ここで、\(D=-(q^2-p^3)\) とおきます。\(D<0\) のとき、この方程式は唯一つの実数解を持っていましたね。
一方、カルダノの公式
\begin{align*}
x&=u+v,&
\begin{cases}
u^3=q+\sqrt{-D}\\
v=\dfrac{p}{u}
\end{cases}
\end{align*}において、\(u^3=q+\sqrt{-D}\) は実数ですので、これを満たす唯一つの実数 \(u\) を
$$
u=\sqrt[3]{q+\sqrt{-D}}
$$と書くことができます。この \(u\) に対応する実数 \(v\) は
$$
v=\frac{p}{\sqrt[3]{q+\sqrt{-D}}}=\sqrt[3]{q-\sqrt{-D}}
$$と書くことができます。よって、
$$
x=u+v=\sqrt[3]{q+\sqrt{-D}}+\sqrt[3]{q-\sqrt{-D}}
$$は元の方程式の実数解となるのです。
以上より、\(D<0\) となるように定めた実数 \(p\neq0\), \(q\) に対して
(\(x^3-3px-2q=0\) の実数解)\(\ =\sqrt[3]{q+\sqrt{-D}}+\sqrt[3]{q-\sqrt{-D}}\)
が成り立つのです!
問題を作ってみよう!
実際に、一緒に手を動かして問題を作成してみましょう!
実数解 \(x=b\) を決める。
\(b=7\) としてみます。
\(D<0\) となる3次方程式 \(f(x)=0\) を作る。
2次の項がない3次方程式で、\(x=b\) を解に持つので
$$
f(x)=(x-b)(x^2+bx+c)
$$のような形をする必要がありますね。また、\(D<0\) ということは、2次方程式 \(x^2+bx+c=0\) は実数解を持ってはいけません。
つまり、判別式を考えると「\(b^2<4c\)」を満たす必要があります。そこで、\(c=16\) としましょう。
このとき、
$$
f(x)=(x-7)(x^2+7x+16)=x^3-33x-112
$$となりますね。
その3次方程式 \(f(x)=0\) から係数 \(p,q\) を求める。
今、\(f(x)=x^3-33x-112\) でしたから、3次式 \(x^3-3px-2q\) と係数比較して \(p,q\) を求めます。この場合は、
\begin{align*}
p&=11,&q&=56
\end{align*}ですね。
\(-D\) を求めて公式に代入する。
さて、\(-D\) を求めましょう。
$$
-D=q^2-p^3=56^2-11^3=5\times19^2
$$ですので、公式より
$$
b=\sqrt[3]{q+\sqrt{-D}}+\sqrt[3]{q-\sqrt{-D}}
$$すなわち
$$
7=\sqrt[3]{56+19\sqrt{5}}+\sqrt[3]{56-19\sqrt{5}}
$$が得られます!
問題の完成!
以上で問題が作れましたね。
「\(\sqrt[3]{56+19\sqrt{5}}+\sqrt[3]{56-19\sqrt{5}}\) を簡単にせよ。」
答えは \(7\) です。
問題を解いてみよう!
カルダノの公式を頭に思い浮かべながらとくとスムーズです。
立方根を \(u,v\) とおく。
\(u=\sqrt[3]{56+19\sqrt{5}}\), \(v=\sqrt[3]{56-19\sqrt{5}}\) とおくと、求める値 \(b\) は
$$
b=u+v
$$と書くことができます。
\(p,q\) を求める。
カルダノの公式から、\(p=uv\) ですので、少し頑張って計算すると
$$
p=uv=\sqrt[3]{56^2-19^2\times5}=11
$$となります。\(q\) は “見た目’’ から \(56\) ですね。(勿論、\(b^3=(u+v)^3=u^3+v^3+3uv(u+v)=2q+3pb\) を基に計算しても良いです。)
3次方程式 \(x^3-3px-2q=0\) の唯一の実数解が答え
\(p=11\), \(q=56\) でしたので、解くべき3次方程式は
$$
x^3-33x-112=0
$$ですね。
今回は厄介です。有理数解を持つとすれば \(112\) の約数となりますが、約数が多いですね。しかし、有限個なので頑張って探しましょう。その見つかった唯一の実数解 \(x=7\) が求めたい実数 \(b\) です。
他の例も知りたいという方へ
本記事で扱わなかった “失敗例’’ を含む例を動画で解説しています。動画で説明された方が理解がしやすいという方はご覧ください。
最後に
いかがでしたか?全5回を通して3次方程式について考え尽くしました。まさに、3次方程式の解の真の姿を見た気がしますね。
この【3次方程式の解の公式シリーズ】は私の自由研究の結果なので、是非、これを基にみなさんなりの考察を行い、自由研究を発展させていってほしいなと思います。
最後に、冒頭で取り上げた値
$$
\sqrt[3]{\dfrac{10\sqrt{3}}{9}-2}-\sqrt[3]{\dfrac{10\sqrt{3}}{9}+2}
$$の構成をお伝えし、終わりにしたいと思います。
- \(b=-2\) とする。(これが答え。)
- \(c=2\) とすると \(f(x)=x^3-2x+4\) となる。
- \(p=\dfrac{2}{3}\), \(q=2\) である。
- \(-D=3\times\left(\dfrac{10}{9}\right)^2\) である。
- \(\sqrt[3]{\dfrac{10\sqrt{3}}{9}-2}-\sqrt[3]{\dfrac{10\sqrt{3}}{9}+2}=-2\) を得る。
本当に、お疲れ様でした。
AkiyaMath
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