3次方程式の解の公式(第3弾) 〜双曲線関数でも解を記述できる!?〜

代数

3次方程式の解の公式として、代数的に導かれるカルダノの公式と、三角関数を用いたビエトの解がありました。そのカルダノの公式については(\(p\neq0\) における)一般的な解の公式になっていましたが、ビエトの解については「\(q^2-p^3<0\)」という条件がついていましたね。

そこで今回、我々は「\(q^2-p^3\geq0\)」のときを考えます。この条件下で議論を進めると、(タイトルでネタバレしているので言ってしまいますが)双曲線関数が現れます。

(双曲線関数についてはこちらの記事

をご覧ください。)

是非、その驚きを共有できたらなと思います。

今回も(実数係数の)3次方程式
$$
x^3-3px-2q=0
$$を解いてゆきたいと思います。では早速、見てゆきましょう。

 

本記事は【3次方程式の解の公式シリーズ】の第3弾です。

 

三角関数による解の表示のおさらい

カルダノの公式の復習

3次方程式 \(x^3-3px-2q=0\) において \(p\neq0\) であるとすると、その解は
\begin{align*}
x&=u+v,&
\begin{cases}
u^3=q+\sqrt{q^2-p^3}\\
v=\dfrac{p}{u}
\end{cases}
\end{align*}と書けていました。これをカルダノの公式と呼んでいましたね。

デメリットを改善した方法

この公式において、\(u\) を簡単に記述するために極形式を導入しました。つまり、
$$
u=re^{i\theta}
$$とおくのです。(オイラーの公式 \(e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta\) をご存知ない方は、こちらの記事「「iのi乗」は実数?虚数?それとも…。証明せよ。 〜指数の拡張〜」をご覧ください。)

そこで、\(q^2-p^3<0\) という条件を課すことによって極形式が有効になり、新しい解の表示
$$
x=2\sqrt{p}\cos\left(\frac{1}{3}\cos^{-1}\frac{q}{p\sqrt{p}}+\frac{2k}{3}\pi\right)\quad(k=0,1,2)
$$を得たのでした。

 

極形式に代わる新しい “形式’’ を創り出す

自然に湧いてくる疑問として、

「じゃあ、\(q^2-p^3\geq0\) のときはどうなるの?」

というものがあるでしょう。このとき、カルダノの公式において \(u^3\) は実数となるので、極形式を考える旨みがありません。そこで、\(u^3\) が虚数のときは \(u=re^{i\theta}\) とおいていたことから、私はこう考えました。

「\(u^3\) が実数のときは \(u=re^\theta\) とおいてみよう!」

ここで

  • \(u\) が正の実数でなければ \(u=re^\theta\) とおくことはできない。
  • 仮におけても正の実数 \(r\) と実数 \(\theta\) は \(u\) に対して一意的に定まらない。

といった問題が生じたため、解決策として、ビエトの解のときの \(r=\sqrt{p}\) に倣い

  • \(r\) は負の値をとることも認める.
  • \(|r|=\sqrt{|p|}\) であるとする.

としました。これにより、\(0\) でない実数 \(u\) に対して
\begin{align*}
u&=re^\theta,&
|r|&=\sqrt{|p|}
\end{align*}なる実数 \(\theta\) が唯一つ存在することになります。

 

新しい形式によるカルダノの公式の書き換え

新しい形式
\begin{align}
u&=re^\theta,&
|r|&=\sqrt{|p|}\tag{1}
\end{align}を考えるにあたり、\(u^3\) が実数になる \(q^2-p^3\geq0\) のときを考えましょう。

新しい形式における \(\theta\) と係数 \(p,q\) の関係

ここでは結果のみを述べることとします。計算は三角関数の表示の場合と同様で、実部と虚部に対応する部分を双曲線関数で置き換えることになります。詳しくは後半で提示する動画をご覧ください。

\(q>0\) かつ \(p>0\) のとき

実数 \(\theta\) は
$$
\cosh3\theta=\frac{q}{|p|\sqrt{|p|}}
$$なる正の実数として定義されます。すなわち、
\begin{align}
\theta=\frac{1}{3}\cosh^{-1}\frac{q}{|p|\sqrt{|p|}}\tag{2.1}
\end{align}ですね。

\(q>0\) かつ \(p<0\) のとき

実数 \(\theta\) は
$$
\sinh3\theta=\frac{q}{|p|\sqrt{|p|}}
$$なる(正の)実数として定義されます。すなわち、
\begin{align}
\theta=\frac{1}{3}\sinh^{-1}\frac{q}{|p|\sqrt{|p|}}\tag{2.2}
\end{align}ですね。

\(q<0\) のとき

元の3次方程式 \(x^3-3px-2q=0\) を変形すると
$$
(-x)^3-3p(-x)-2(-q)=0
$$となります。つまり、\(q>0\) の場合の解さえ求まれば、その表示において

  1. \(q\) を \(-q\) に置き換えて
  2. 解全体を \((-1)\) 倍する

ことによって \(q<0\) の場合の解の表示が得られるのです。

\(q>0\) の場合の解の表示が完成するのを待ちましょう。

\(q=0\) のとき

このとき \(p<0\) であることがわかるので、元の3次方程式 \(x^3-3px-2q=0\) より1個の実数解 \(0\) と2個の異なる虚数解 \(\pm\sqrt{-3p}i\) を持つことがわかります。

新しい形式における \(\theta\) と解 \(x\) の関係

\(q>0\) かつ \(p>0\) のとき

複素数 \(\theta\) について \(u=\sqrt{p}e^\theta\) と書けているとします。これを \(x=u+\dfrac{p}{u}\) に代入して計算することで
$$
x=2\sqrt{p}\cosh\theta
$$となります。

実際は \(u\) の代わりに \(\omega u\), \(\omega^2 u\) を採用した解もあるので、式 (2.1) による \(\theta\) に対して
\begin{align}
x=2\sqrt{p}\cosh\left(\theta+\dfrac{2k}{3}\pi i\right)\quad(k=0,1,2)\tag{3.1}
\end{align}となるのです!

\(q>0\) かつ \(p<0\) のとき

複素数 \(\theta\) について \(u=\sqrt{-p}e^\theta\) と書けているとします。これを \(x=u+\dfrac{p}{u}\) に代入して計算することで
$$
x=2\sqrt{-p}\sinh\theta
$$となります。

実際は \(u\) の代わりに \(\omega u\), \(\omega^2 u\) を採用した解もあるので、式 (2.2) による \(\theta\) に対して
\begin{align}
x=2\sqrt{-p}\sinh\left(\theta+\dfrac{2k}{3}\pi i\right)\quad(k=0,1,2)\tag{3.2}
\end{align}となるのです!

 

双曲線関数を用いた解の表示

以上より、新しい形式における \(\theta\) によって解 \(x\) と係数 \(p,q\) が繋がりました。

  • \(q>0\) においては、式 (3.1), (3.2) による解 \(x\) の表示に式 (2.1), (2.2) を代入します。
  • \(q<0\) においては、\(q>0\) の場合の表示の \(q\) を \(-q\) に置き換えて解全体を \((-1)\) 倍します。
  • \(q=0\) の場合は、\(p<0\) の場合に含めます。

これらによって、\(q^2-p^3\geq0\) における解の表示


\begin{align}
x
=\begin{cases}
\ \ \,2\sqrt{|p|}\cosh\left(\dfrac{1}{3}\cosh^{-1}\dfrac{|q|}{|p|\sqrt{|p|}}+\dfrac{2k}{3}\pi i\right)&(p>0,\ q>0)\\[17pt]
-2\sqrt{|p|}\cosh\left(\dfrac{1}{3}\cosh^{-1}\dfrac{|q|}{|p|\sqrt{|p|}}+\dfrac{2k}{3}\pi i\right)&(p>0,\ q<0)\\[17pt]
\ \ \,2\sqrt{|p|}\sinh\left(\dfrac{1}{3}\sinh^{-1}\dfrac{|q|}{|p|\sqrt{|p|}}+\dfrac{2k}{3}\pi i\right)&(p<0,\ q\geq0)\\[17pt]
-2\sqrt{|p|}\sinh\left(\dfrac{1}{3}\sinh^{-1}\dfrac{|q|}{|p|\sqrt{|p|}}+\dfrac{2k}{3}\pi i\right)&(p<0,\ q\leq0)
\end{cases}\quad(k=0,1,2)\tag{4}
\end{align}

 

を得ます!

 

この表示を少し眺めると、\(\theta=\dfrac{1}{3}\cosh^{-1}\dfrac{|q|}{|p|\sqrt{|p|}}\) や \(\theta=\dfrac{1}{3}\sinh^{-1}\dfrac{|q|}{|p|\sqrt{|p|}}\) によって定まる \(\theta\)(双曲線と動径と軸が囲む領域の面積が \(4|p|\times\dfrac{\theta}{2}\) である)を考えたとき、\(\theta\) によって表される双曲線 \(x^2-y^2=4p\) 上の点の \(x\) 座標が解を表していることがわかります。その様子をアニメーションで見てみましょう。

\(p>0\) の場合。

\(p<0\) の場合。

 

より詳しい理論について

今回は説明の簡潔性を求めたため、途中の式変形などの説明を省略しています。本記事のより詳しい説明は以下の動画をご覧ください。

 

最後に

いかがでしたか?今回はカルダノの公式から双曲線関数を用いた3次方程式の解の公式を導出しました。\(u^3\) が虚数のときは三角関数が現れましたが、実数になるときは三角関数の親戚である双曲線関数が現れるのですね!

みなさんは気付き、感じましたか?

「あー、\(q^2-p^3>0\) なら虚数解も持つのかー。」

「なんか、カルダノの公式より議論中で仮定する条件多いな。」

と。

場合分けは多いですが、どれも三角関数による表示
$$
x=2\sqrt{p}\cos\left(\frac{1}{3}\cos^{-1}\frac{q}{p\sqrt{p}}+\frac{2k}{3}\pi\right)\quad(k=0,1,2)\tag{4}
$$に類似しています。しかし、虚数解を表す場合も含むので複素数の範囲で考えていますね。

次回、第4弾ではこれらの類似した解の表示を一本化します!“合計5本の式が1本になる’’ という事実は驚きですが、その種明かしを行います。また、それを利用して解の配置を図示するアニメーションをご覧に入れようと思います。



AkiyaMath

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