「解の公式」と聞くと、中学数学で習う2次方程式の解の公式を思い起こす方が多いと思います。今回は、高校数学で扱われていそうで扱われていなかった(複素数係数の)3次方程式
$$
ax^3+bx^2+cx+d=0
$$の解の公式を導出したいと思います。
高校数学において “教科書に載らない理由’’ は何なのでしょうか?単に “長すぎるから’’ なんていう取るに足りない理由なのでしょうか?
(一応、記事の最後に “見た目インパクト重視’’ の公式を載せているので読み進めてみてください…。)
本記事は【3次方程式の解の公式シリーズ】の第1弾です。
解の公式で使える計算とは
「公式」といえば、定理のような重要な主張を表す数式のことです。その中でも「解の公式」というと、方程式の解を記述する公式のことをいいます。
今回はその解の公式を扱うわけですが、本記事では “代数的な’’ 解の公式を単に「解の公式」と呼ぶことにします。
解の公式を記述してゆくにあたり、何を使って良いのか、何でもアリなのか、はっきりさせておきましょう。
四則演算の計算をする
まず、解の公式で使って良いのは四則演算です。
これが使えなければ、数を考える意味がありません。
累乗根をとる計算をする
次に、認められているのが、累乗根の計算です。
簡単にいえば「ルートを使って良い」ということです。我々は複素数を考えているので、複数の値をとってしまう(“多価’’ になる)表記、例えば安易に \(\sqrt[3]{i}\) などと書くことはできません。
(複素数の累乗については「「iのi乗」は実数?虚数?それとも…。証明せよ。 〜指数の拡張〜」を参照。)
この問題を回避するために、例えば \(\sqrt[3]{i}\) を公式で使いたいときには
$$
\alpha^3=i
$$と書き添えた上で、そこに \(\alpha\) と書くことにします。
「解の公式」とは
なんと、解の公式で認められている計算は上記のふたつの操作を有限回だけ繰り返し行うことだけです。例えば、
\begin{align*}
x&=\frac{-b+y}{2a},&
y^2&=b^2-4ac
\end{align*}などです。(2次方程式の解の公式ですね。)
このように、このふたつの操作を有限回だけ駆使して解を記述するのです。
(無限回まで許すと、有理数から無理数が作れるなど、数の世界を雑に拡張することになってしまうので、それは避けたいのです。)
カルダノの公式の導出
では、主題である3次方程式について考えましょう。
鍵となる因数分解
実際に解き始める前に、このあと使う因数分解を紹介します。高校数学の数学Iで、因数分解
$$
a^3+b^3+c^3-3abc=(a+b+c)(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca)
$$を見たことがある方も多いと思います。この因数分解を複素数の範囲まで押し進めます。
\(1\) の立方根のうち虚数であるもののひとつを \(\omega\) とおきます。このとき、\(a^2+b^2+c^2-ab-bc-ca=0\) を \(a\) に関する2次方程式として解くことで
$$
a^3+b^3+c^3-3abc=(a+b+c)(a+\omega b+\omega^2 c)(a+\omega^2 b+\omega c)
$$と因数分解することができます。この因数分解を用いて、特別な場合の3次方程式の解の公式を求めてみましょう。
特殊な3次方程式の解の公式
先ほど見た因数分解は \(a\) に関する3次式を1次式の積に因数分解するものなので、3次方程式の解の公式に用いれないか考えます。そこで、
\begin{align*}
a&=x,&b&=-u,&c&=-v
\end{align*}としてみると
$$
x^3-3uvx-(u^3+v^3)=(x-u-v)(x-\omega u-\omega^2 v)(x-\omega^2 u-\omega v)
$$となります。よって、\(x\) の3次方程式
\begin{align}
x^3-3uvx-(u^3+v^3)=0\tag{1.1}
\end{align}の解は
\begin{align}
x=u+v, \omega u+\omega^2 v, \omega^2 u+\omega v\tag{1.2}
\end{align}と書けるのです!
カルダノの公式
方程式 (1.1) は2次の項がない3次方程式の中でも、特別なものでした。これを、2次の項がない一般の3次方程式
\begin{align}
x^3-3px-2q=0\tag{2.1}
\end{align}に拡張しましょう。但し、\(p=0\) の場合は \(x^3=2q\) となり代数的には解けているので、\(p\neq0\) とします。
方程式 (1.1), (2.1) の係数を比較すると
\begin{align}
p&=uv,&2q&=u^3+v^3\tag{2.2}
\end{align}となります。これを満たすような定数 \(u\), \(v\) を定められれば良いですね。
この式 (2.2) を満たす定数 \(u\), \(v\) は
\begin{align}
p^3&=u^3v^3,&2q&=u^3+v^3\tag{2.3}
\end{align}を満たす必要があります。よって、2次方程式の解と係数の関係から、\(u^3\), \(v^3\) は
$$
T^2-2qT+p^3=0
$$のふたつの解となります。ここで、\(r^2=q^2-p^3\) なる \(r\) を任意にひとつとって \(\sqrt{q^2-p^3}\) と書くことにすれば、実際に方程式を解くことで
\begin{align*}
u^3&=q+\sqrt{q^2-p^3},&
v^3&=q-\sqrt{q^2-p^3}
\end{align*}となります。
このとき、\(u\) と \(v\) は各々3通りの値が考えられますが、先に述べたように式 (2.3) を満たすことは式 (2.2) を満たすための必要条件であって十分条件ではありません。よって、これは \(u\) と \(v\) を絞り込んだに過ぎませんから、式 (2.2) によって特定する必要があります。式 (2.2) の第一式を見れば、\(v=\dfrac{p}{u}\) として \(v\) を定めれば良いことがわかります!
また、\(u\) は3通りの値が考えられますが、解の表示 (1.2) も3通りがあります。実際には
$$
u^3=q+\sqrt{q^2-p^3}
$$による3通りの \(u\) の値を考えれば、解の表示は
$$
x=u+v
$$のみを考えれば良いことがわかります!!
以上より、3次方程式 (2.1) の解は
\begin{align}
x&=u+v,&
&\begin{cases}
u^3=q+\sqrt{q^2-p^3}\\[5pt]
v=\dfrac{p}{u}
\end{cases}\tag{2.4}
\end{align}と書けるのです!!!
これをカルダノの公式といいます。
一般の3次方程式の解の公式の導出
さて、一般の3次方程式
\begin{align}
ax^3+bx^2+cx+d=0\tag{3.1}
\end{align}を如何にして方程式 (2.1) に帰着させるか考えます。
2次の項さえ消せれば良いわけです。似た計算として、2次式に対して平方完成を行って1次の項を消すという操作がありました。それを真似して、3次式に対して “立方完成’’ を行なって2次の項を消しましょう。
具体的な計算は機械的な展開なので省略しますが、平方完成のときに \(y=2ax+b\) とおいていたことに倣い、立方完成では \(y=3ax+b\) とおきます。そこで、方程式 (3.1) の両辺を \(27a^2\) 倍して整理してゆくと
$$
y^3-3(b^2-3ac)y+27a^2d-9abc+2b^3=0
$$となります。
この \(y\) の係数を \(-3p\) とおき、定数項を \(-2q\) とおけば方程式 (2.1) に帰着します。これより、我々が欲していた3次方程式の解の公式 (但し、\(p\neq0\) の場合) は以下の通りです。
\begin{align}
\begin{array}{l}
x=\dfrac{-b+y}{3a},\\[10pt]
y=u+v,\\[10pt]
\begin{cases}
u^3=q+\sqrt{q^2-p^3}\\[5pt]
v=\dfrac{p}{u}
\end{cases},\\[10pt]
\begin{cases}
p=b^2-3ac\\[5pt]
q=-\dfrac{1}{2}(27a^2d-9abc+2b^3)
\end{cases}
\end{array}\tag{3.2}
\end{align}
これが、【3次方程式の解の公式】です。
(ちゃんと有限回の四則演算と累乗根をとる操作で書けていますね!!!)
より詳しい理論について
今回は説明の簡潔性を求めたため、方程式をどこの “体’’ の上で解いているかなどの代数学的な説明を省略しています。本記事のより詳しい説明は以下の動画をご覧ください。
最後に
いかがでしたか?今回は3次方程式の解の公式を導出しました。この公式によって、3次方程式は必ず解くことができます。
しかし、\(x^3-3x^2+2x=0\) のような整数 \(0,1,2\) を解に持つ簡単な3次方程式に対しても、わざわざ複素数を用いた解の表示を与えることになるのです。万能だからといって、人間からすると実用的ではない場面もあるようです。
高校数学の教科書に載らない理由の大きなひとつは、\(u^3\) から \(u\) を求める際の「複素数の立方根を求める計算」が厄介であるからです。ひとつの複素数解 \(u_0\) がみつかれば、他の解は \(\omega u_0,\omega^2 u_0\) となりますが、はじめの \(u_0\) はどのように見つけますか?
「\(u^3\) が極形式で与えられていれば、手が出せる気持ちになりませんか?」
これが次回につながる鍵となります。
次回、第2弾では「有限回の四則演算と累乗根をとる操作に限る」という制約を外し、ある意味で何でもアリの状態で新しい解の表示を与えます。
最後に、今まで我々が気を遣ってきた「複素数の累乗根の多価性」や「表記の簡潔性」を捨て、相手にインパクトを与えるために式 (3.2) をわざわざ書き下したものを書いて終わりにします。\(\omega\) を書き下せば、よりアレな式となるのですが、そこまでする気にはなりませんでした…。
(大幅に右側にはみ出ることが予想されます。何か誤表示があったらすみません。左右にスクロールしてみてください。)
\begin{align}
x_1
&=\dfrac{-b
+\sqrt[3]{-\dfrac{1}{2}(27a^2d-9abc+2b^3)+\sqrt{\dfrac{1}{4}(27a^2d-9abc+2b^3)^2-(b^2-3ac)^3}}
+\sqrt[3]{-\dfrac{1}{2}(27a^2d-9abc+2b^3)-\sqrt{\dfrac{1}{4}(27a^2d-9abc+2b^3)^2-(b^2-3ac)^3}}
}{3a},\\[10pt]
x_2
&=\dfrac{-b
+\omega\sqrt[3]{-\dfrac{1}{2}(27a^2d-9abc+2b^3)+\sqrt{\dfrac{1}{4}(27a^2d-9abc+2b^3)^2-(b^2-3ac)^3}}
+\omega^2\sqrt[3]{-\dfrac{1}{2}(27a^2d-9abc+2b^3)-\sqrt{\dfrac{1}{4}(27a^2d-9abc+2b^3)^2-(b^2-3ac)^3}}
}{3a},\\[10pt]
x_3
&=\dfrac{-b
+\omega^2\sqrt[3]{-\dfrac{1}{2}(27a^2d-9abc+2b^3)+\sqrt{\dfrac{1}{4}(27a^2d-9abc+2b^3)^2-(b^2-3ac)^3}}
+\omega\sqrt[3]{-\dfrac{1}{2}(27a^2d-9abc+2b^3)-\sqrt{\dfrac{1}{4}(27a^2d-9abc+2b^3)^2-(b^2-3ac)^3}}
}{3a}
\end{align}
AkiyaMath
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