四則演算に始まり、我々は様々な計算を知っていますね。
その計算をする中において「0」という数は特別な意味を持つことがあります。
例えば、
- 任意の数 \(a\) に対して \(a+0=a\) となる。
- 任意の数 \(a\) に対して \(a\times0=0\) となる。
- ゼロ除算 \(1\div0\) は禁止されている。
などがあります。
今回は、そんな中でも「\(0\) の \(0\) 乗」つまり “ \(0^0\) ” について考えてゆこうと思います。
ここで、復習ですが
- \(x\neq0\) なる実数 \(x\) に対して \(x^0=1\) となります。
- \(y>0\) なる実数 \(y\) に対して \(0^y=0\) となります。
さて、\(x=y=0\) であるとき \(x^y\) はどうなるでしょうか。
冪乗(べきじょう)の復習から始め、二つの異なる立場を紹介します。
厳密な数学という学問でも異なる立場が生ずることがある例として読み進めていただければと思います。
実数までの冪乗の復習
\(x\) を実数として、\(x\) を底とした冪乗について復習したいと思います。
自然数の指数について
\(2+2+2\) のように同じ数の和を \(2\times3\) と書こうというのが自然数をかける積の約束でした。
このように、繰り返しの操作を省略した簡潔な記法を作ろうという考え方があります。
この考え方のもと、積の繰り返し \(2\times2\times2\) を略記しようとしたのが指数です。
これを「\(2^3\)」と書くことはみなさんご存知だと思います。
以上より、自然数 \(n\) が指数となるとき
$$
x^n=\underbrace{x\times x\times\cdots\times x}_{n \mbox{個}}
$$と定義されます。
ここで、任意の自然数 \(n\) に対して底 \(x\) は全ての実数をとることができます。
このとき、自然数 \(m, n\) に対して、定義より指数法則
\begin{align*}
x^mx^n&=x^{m+n},\\
(x^m)^n&=x^{mn},\\
(xy)^m&=x^my^m\\
\end{align*}
が成り立ちます。
整数の指数について
冪乗 \(x^n\) (\(n\) は整数) を定義しましょう。
指数 \(n\) が自然数のとき。\(x^n\) は既に定義されています。
\(n=0\) のとき。\(x\neq0\) とすると、指数法則を仮定すれば、
$$
x=x^1=x^{1+0}=x^1\times x^0=x\times x^0
$$となるので、両辺を \(x\) で割ると
\begin{align}
x^0=1\tag{0}
\end{align}となります。
\(n<0\) のとき。\(x\neq0\) とすると、指数法則を仮定すれば、\(-n\) は自然数なので
$$
x^nx^{-n}
=x^{n+(-n)}
=x^0
=1
$$となるので、両辺を \(x^n\) で割ると \(x^n=\dfrac{1}{x^{-n}}\) となります。
以上より、整数 \(n\) が指数となるとき、冪乗 \(x^n\) が定義され、指数法則が成り立ちます。
ここで、任意の整数 \(n\) に対して底 \(x\) がとり得る範囲は、\(0\) でない全ての実数です。
有理数の指数について
冪乗 \(x^r\) (\(r\) は有理数) を定義しましょう。
指数 \(r\) が整数のとき。\(x^r\) は既に定義されています。
\(r=\dfrac{1}{m}\)(\(m\geq2\))のとき。指数法則を仮定すると、
$$
(x^r)^m=x^{rm}=x^1=x
$$であるので、\(x^r\) は \(t\) の \(m\) 次方程式
\begin{align}
t^m=x\tag{1}
\end{align}の解になっています。
\(x=0\) ならば、方程式 (1) の解は \(0\) のみなので、\(0^r=\sqrt[m]{0}=0\) とします。
\(x\neq0\) であって \(m\) が奇数ならば、方程式 (1) は常に唯一つの実数解を持つので、それを \(x^r=\sqrt[m]{x}\) とします。
\(x\neq0\) であって \(m\) が偶数ならば、方程式 (1) は \(x>0\) のときに正の実数解を唯一つ持つので、それを \(x^r=\sqrt[m]{x}\) とします。
\(r=\dfrac{n}{m}>0\)(\(m\geq2\))のとき。\(x\geq0\) とすると、指数法則を仮定すれば、
$$
(x^r)^m=x^{rm}=x^n
$$であるので、\(x^r\) は \(r=\dfrac{1}{m}\) のときと同様に、 \(t\) の \(m\) 次方程式 \(t^m=x^n\) の解によって定義されます。
つまり、\(x^r=\sqrt[m]{x^n}\) と定めます。
\(r<0\) のとき。\(x>0\) とすると、指数法則を仮定すれば、\(-r>0\) なので
$$
x^rx^{-r}
=x^{r+(-r)}
=x^0
=1
$$となるので、両辺を \(x^{-r}\) で割ると \(x^r=\dfrac{1}{x^{-r}}\) となります。
以上より、有理数 \(r\) が指数となるとき、冪乗 \(x^r\) が定義され、指数法則が成り立ちます。
ここで、任意の有理数 \(r\) に対して底 \(x\) がとり得る範囲は、全ての正の実数です。
実数の指数について
冪乗 \(x^y\) (\(y\) は実数) を定義しましょう。
本来は実数の定義に立ち返る必要がありますが、ここでは深入りしないことにします。
簡単に言えば
「実数とは有理数列の極限値になる数のこと」
です。
例えば、\(\sqrt{2}\) は有理数ではないことが知られていますが、
$$
1, \frac{14}{10}, \frac{141}{100}, \frac{1414}{1000}, \frac{14142}{10000}, \cdots
$$
という有理数列は \(\sqrt{2}\) に収束するので、\(\sqrt{2}\) は実数であると言えるのです。
さて、\(y\) は実数ですから、\(y\) に収束する有理数列 \(\{y_n\}\) が存在します。
ここで、有理数に対する指数 \(x^{y_n}\) を考えるので \(x>0\) でなければなりません。
このとき、数列 \(\{x^{y_n}\}\) は収束するので、その極限値として \(x^y\) を定義します。
例えば、\(2^\sqrt{2}\) は
$$
2^1, 2^\frac{14}{10}, 2^\frac{141}{100}, 2^\frac{1414}{1000}, 2^\frac{14142}{10000}, \cdots\ \to 2^\sqrt{2}
$$のように定めるのです。
以上より、実数 \(y\) が指数となるとき、冪乗 \(x^y\) が定義され、指数法則が成り立ちます。
ここで、任意の実数 \(y\) に対して底 \(x\) がとり得る範囲は、全ての正の実数です。
“ \(0^0\) ” は【定義されない】という立場
“ \(0^0\) ” はどのように定めてあげることが自然でしょうか?
ここでは、関数の連続性を用いて定めることを試みましょう。
\(xy\) 平面上の点 \((x,y)\) に対して
$$
z=F(x,y)=x^y
$$という値を考えます。
但し、定義域は、第一象限と第四象限、\(x\) 軸の正の部分と \(y\) 軸の正の部分を合わせた部分とします。
このとき、二変数関数 \(F(x,y)\) が原点でも連続になるように“ \(0^0\) ” を定義しましょう。
つまり、原点への極限として
\begin{align}
0^0=\lim_{\substack{x\to+0 \\ y\to+0}}x^y\tag{2}
\end{align}と定義します。
さてこの定義を採用することは可能でしょうか?
\(x\) 軸に沿って近づける
式 (2) において、\(x\) 軸に沿って極限をとってみましょう。
\(y=0\) とすると
\begin{align}
0^0=\lim_{x\to+0}x^0=\lim_{x\to+0}1=1\tag{3}
\end{align}となります。
\(y\) 軸に沿って近づける
式 (2) において、\(y\) 軸に沿って極限をとってみましょう。
\(x=0\) とすると
\begin{align}
0^0=\lim_{y\to+0}0^y=\lim_{y\to+0}0=0\tag{4}
\end{align}となります。
式 (3) と式 (4) より、\(1=0\) となってしまいます。
これはあり得ませんので、式 (2) によって “ \(0^0\) ” を定義することは不可能であることがわかります。
この、連続性を用いた自然な拡張による定義が不可能なことを以て、“ \(0^0\) ” は定義されないという立場をとることがあります。
“ \(0^0\) ” は【 \(1\) になる】という立場
上記の拡張は不可能でしたが、先ほど要請した連続性の条件を緩めてでも定義してしまおうという考え方があります。
関数 \(x^0\) の連続性を優先する
先程の矛盾は式 (3) と式 (4) から生じていました。
その矛盾を生じさせないために、どちら一方を諦め、他方で “ \(0^0\) ” を定義しましょう。
式 (3) は “多項式” 関数 \(x^0\) (\(x\neq0\)) の連続性に因るものです。
式 (4) は “指数” 関数 \(0^y\) (\(y>0\)) の連続性に因るものです。
「多項式関数を優先するか、指数関数を優先するか。」
ここで、多項式関数を優先すれば関数 \(x^0\) は実数全体で連続となりますが、指数関数を優先しても関数 \(0^y\) は実数全体では定義されません。
これにより、より利点があるであろう多項式関数の連続性を表す式 (3) によって “ \(0^0\) ” を \(1\) と定義することにします。
様々な公式の記述を楽にするため
“ \(0^0\) ” を \(1\) と定義すると、\(x^0\) を実数全体で自由に扱えます。
よって、\(x^0\) を含んだ公式の表記が煩雑になることを防ぐことができます。
例えば、二項定理における公式
$$
(1+x)^n=\sum_{k=0}^n{}_n{\rm C}_kx^k
$$はよく知られていますが、\(x=0\) のとき、\(k=0\) の項で “ \(0^0\) ” が登場してしまいますよね。
ここでは暗黙のうちに \(0^0=1\) としているのです。
然もなくば、
$$
(1+x)^n=1+\sum_{k=1}^n{}_n{\rm C}_kx^k
$$と書かなくてはなりません。
しかし、それは面倒ですよね。
他にも、ここでは詳細を述べることを避けますが、関数を次数無限大の多項式で表現するマクローリン展開(テイラー展開)でも \(x^0\) が登場します。
例えば、指数関数 \(e^x\) と三角関数 \(\cos x\) はそれぞれ
\begin{align*}
e^x&=1+x+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+\frac{x^5}{5!}+\cdots,\\
\cos x&=1-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\frac{x^6}{6!}+\frac{x^8}{8!}-\cdots\\
\end{align*}と書くことができるのですが、\(x^0=1\) が任意の実数について成り立つのなら
\begin{align*}
e^x&=\sum_{n=0}^\infty\frac{x^n}{n!},&
\cos x&=\sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^n}{(2n)!}x^{2n}
\end{align*}と簡潔に書けるのです。
然もなくば
\begin{align*}
e^x&=1+\sum_{n=1}^\infty\frac{x^n}{n!},&
\cos x&=1+\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^n}{(2n)!}x^{2n}
\end{align*}と書かなければなりません。
まとめ
今回は、底が \(0\) であって、指数も \(0\) である \(0\) の \(0\) 乗 “ \(0^0\) ” について考えてきました。
その値は、関数 \(x^0\) の連続性を優先することで、暗黙のうちに \(1\) と定義されることがあります。
その方が、様々な公式の記述が簡単に行えるなどの利点がありました。
その一方で、要請される連続性を指数まで拡張し、関数 \(x^y\) の連続性を用いて定義しようとすると矛盾が生じてしまいます。
これにより、定義はされないものとすることも多々あります。
このように、厳密なイメージのある数学でも、時と場合によって定義されたりされなかったりする値があるのです。
その場の慣習や文化を読み取り、何事も柔軟に学んでゆきたいものです。
コメント