定義 〜数学を通して学ぶ問題解決力〜

数学の学び方

「定義」という言葉を聞いて,皆さんはどう感じられるでしょうか?

「難しそう」「なんだか堅苦しい」「気にしたことなかった」

私も,数学をしっかりと学ぶまでは「定義」という言葉にはそんなに重きを置いたことはありませんでした.しかし,より深く数学の世界に浸かっていくにつれて,この存在の重要さをひしひしと感じるようになりました.

今回は数学を学ぶ上で,そして伝えていくうえで大切である,そんな「定義」のお話です.

そもそも「定義」とは

この問いかけが,もしかしたら一番難しいかもしれません.手元に国語辞典がなかったので,Googleさんで調べてみました.

〘名〙 (definition の訳語) 概念の内容や用語の意味を正確に限定すること。また、その命題や式。(精選版 日本国語大辞典)

このように書かれていました.これがまさしく「定義の定義」になるわけですね.

あまりにも抽象的すぎるので,少し具体例を出しておきましょう.

二辺の長さが等しい三角形を二等辺三角形と定義する

世の中にはあらゆる三角形が存在します.辺の長さがバラバラな三角形や,とんがった三角形,直角三角形などなど.その中でも,「二辺の長さが等しい」という性質を持った三角形に限定して,「二等辺三角形」と名付けるとします.これが,二等辺三角形の定義であり,「二等辺三角形を定義した」ということになります.

私が塾で中学生に教えるときには,「物事に名前をつけることだよ」と説明をしています.厳密さは欠いている気もしますが,大まかにそのような理解でも問題はないでしょう.

しかし,特に数学を教える立場にある方々には,その奥まで理解をしておいていただきたい,という思いがあります.

全ての出発点は「定義」である

突然ですが,次のような問題を考えてみましょう.

問. 次の\(x,y\)についての方程式の解を求めよ.
\begin{align}
&2x + 3 = 11 \\
&y^2 – 5y + 6 = 0
\end{align}

義務教育課程内の数学ですね.「舐めるんじゃあないよ!」と思われる方もいると思います.ちなみに,一般的な答えはそれぞれ,


\begin{align*}
x &= 4 \\
y &= 2,3
\end{align*}
となります.問題なさそうですかね?

ではここで質問です.

「方程式の解とは何ですか?」

この場合,こちらが求めている答えは,先ほどの

\begin{align*}
x &= 4 \\
y &= 2,3
\end{align*}
ということではありません.そもそも計算によって求めたであろう上記の式は何なのか?ということです.

つまりここでは,「解の定義」を問うています.ここでいう「解」とは,「与えられた方程式を満たすような変数\(x\)もしくは\(y\)の値のこと」を指しています.これが「方程式の解」の定義になります.
恐らくほとんどの子どもたちが,こんなことは考えずに計算問題として移項や因数分解などを用いた解法を学んでいきます.しかし,方程式の解を求める(方程式を解く)という作業も,そもそもそのゴールである「解」がきちんと矛盾なく,数学的に定義されているからこそ行うことができる作業なのです.

数学では,「解」すらも定義して議論をしていきます.もっと言ってしまえば,定義がなければ何も始まりません.ある性質や条件を正しく定義してこそ,理論を展開することができるのです.

現実世界における「定義」の意義

今までの話で「やっぱり数学って堅苦しくて無理だわ」と感じられる方も多いかもしれません.きっと,ある側面でそれは事実なので,仕方がありません…(泣)
しかしここまでの話は,普段生活していく上で非常に大切な話になると信じています.

こんなシチュエーションを考えてみましょう.

あなたはある会社の人事部です.特に採用活動に携わる機会が多く,日夜イベントの企画や内定者との面談で大忙しです.しかし最近,採用活動の活動実績が芳しくない,と上司から苦言が.「どうにかしないと」と,人事部では改善策を考えて日々会議です.どういう改善策を打つのが適切でしょうか?

就活のグループワークみたいになってしまいました(笑)
さて,このシチュエーションを取り上げて,何をお伝えしたかったのか?

今回のテーマは「定義」でした.ここでお伝えしたいのは,「何か問題を解決しようと思ったのであれば,まずその問題は何か」を定義しましょう,ということ.そしてそのもう一歩先,「その問題の解は何か」まで定義することで,初めて問題に着手することができるのです.
例えば苦言の内容を分析し,「内定辞退者が増えている」という問題に対し,「内定辞退者が先月より減ること」を解とする,といった具合です.解まで定義できれば,「最終選考までの選抜方法を見直す」や,「内定者同士の懇親の場を充実させる」などの解法が見えてくるかもしれません.

このアプローチって,数学の方程式を解くことと何ら変わりありませんよね?いわゆる問題解決能力みたいなものは,数学を学ぶことで培うことができると思います.しかしそれは,「単なる計算問題」ではなく,「問題の構造を,定義に重きを置きつつ理解すること」を忘れなければ,です.
数学を伝える側の人間としては,常にこのような視点を忘れずにいたいものです.

まとめ

今回は「定義」をテーマにお話ししていきました.「定義」は数学の議論をする上で非常に大事な概念です.しかし,それは数学に止まらないと私は思っています.
今まで(数学に限らず)様々な問題に取り組んだご経験が,皆様にもあると思います.
いろいろとぼんやりしていることも,全て「定義」に立ち返ると,様々な方向性や着眼点がクリアになっていくかもしれません.

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